脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

読書教に文句言いたい


書を捨てよ、文句を言おう。

若者の車離れ、若者のテレビ離れ、若者の飲み会離れ…etc

「若者の○○離れ」の種類を挙げるとキリがないくらい、
この国の若者は色んなものから離れているらしいよ。
そりゃT-BOLANが『離したくはない』と歌ってからもう25年だもんな。

俺は本を読まない。

ただこれらの言葉はそもそもおかしいというか、
「普通なら○○に近づくのが当然」といった勝手な考えが根底にある。
古い時代の価値感のまま取り残されている事を若者のせいにする、
非常にわがままで傲慢な物言いだと思っている。

特に「読書離れ」というヤツはどうも厄介だよ。
「最近の若者は本を読まない」なんて話は結構前からよく耳にするが、
なんかこう読書しない人間は知識が浅いとか教養が足りないとか、
ともすれば人間が薄っぺらいみたいなそんな圧力すら感じる。

大学生のとき、俺はゼミの先生から
「君は本を読んでないだろ。喋りからそう感じる。もっと読め。」
と言われた事があった。

そこで俺は
「他の人がどれくらい読んでいるかは知りませんし、
 ”読んでいる”と言える水準がどれくらいかも分かりませんが、
 確かに先生よりは読んでいないでしょうね。」
と、なんとも面白くない回答をしてしまった。

今思えば
「そっすねwでも先生、多分俺よりスマブラ弱いですよww」
とでも言えば良かったと後悔している。
でも本当にスマブラして普通に俺が負けたりしたらもう死ぬしかない。


しかし実際に俺は本を読んでいるとは到底言えない。
活字の本は年間で20冊読むか読まないか程度だ。
漫画も含めれば100冊は読んでいるだろうがそれでも大した事は無い。

世の中には年間で数百冊読んでいる人が普通にいて、
その人達からすれば俺なんか戦闘力5のおっさんなわけで、
「ゴミめ」と言われてラディッツから撃ち抜かれて死ぬ。
だからこんな駄文を書く能力しか無い。察しろ。

そうだよ、社会人になって暫くした頃、
意識高い人間目指してマイケル・サンデルの本を買ったけど、
読み始めると20分で眠くなって俺は意識の低いゴミと気づいたんだよ。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
マイケル サンデル Michael J. Sandel
4150503761


そう、この「本を○○冊読んでる」という指標は、
その人間のレベルを推し量るバロメータみたいになっているのだ。
「趣味読書」と言う四字熟語で人間は光り輝く。眩しくなる。キラッ☆

だが俺の闇属性は深いぞ。そんな光ごときでは覆い隠せない闇だ。
そこで俺はこの世に蔓延する「読書教」に立ち向かう事にした。
「私、この一年で本を300冊読みました☆」だぁ~?
知るかっ。俺はこの一年でアイス300個は食ったぞ!デブッ☆

読んだ本の冊数にどんな意味があるのか。

そもそも一般的に言われている「本」とは何だろうか。
個人的な感覚だが、なんとなく文芸書とかドキュメンタリーとか、
そういうちょっと手軽には読みづらい内容の本を指していると思う。

だがこれもよくよく考えればおかしな話である。
漫画や絵本は本としてカウントされないだろうか。
あとライトノベルは一般的な小説と同じ扱いはされないだろうか。

勿論この辺りは人それぞれの感覚になるんだろうが、
それでも「本」というと国語の試験問題に採用されそうな、
真面目な内容のものこそが正真正銘の「本」という雰囲気はある。


また単純に「○冊」といいう本の数も不思議な指標だ。
一口に本と言っても一冊600ページくらいのものから
200ページに満たないものまで様々だ。
さらにフォントや行間も本によって違ってくる。

また最近は電子書籍の台頭もあって、
今までは200ページくらいないと本の装丁自体がやりにくかったのだが、
50ページに満たない比較的安めの本が電子書籍で沢山でてきた。

つまりもう「○冊読んだ」と言われても正直良く分からないんだよ。
だからみんな字数で言って。「私この一年で500万字読んだ~」とかさ。
…アレ?結局良く分かんねーなコレも。


あと当然ながら本の内容、質も問題だ。
俺が最近読んだ本の中にも期待した割には正直大した事無い本もあった。
それよりもよっぽどためになったと思えたネットの記事もあった。

「ネットよりも本の内容の方が質が高い」などと
未だに本気で謳っている人もいるが、当然ながらそうとは限らない。
可能性としてはそうかもしれないが盲目的に本を崇めるのは良くない。

だから「本を○○冊読んだ~」なんて結局良く分からない指標なんだよ。
ポケモン○○匹集めた~」と言ってるようなもんだ。
肝心なのは数じゃなくそのポケモンの中で愛用ポケモンは何匹なのかだ。
俺の所持ポケモンも数は多くなくとも愛すべき毒ポケモンで溢れている。

本には時代を作る力があった。

しかし本がここまで権威を得ているのはやはり歴史的背景がデカい。
その昔、紙がまだ貴重だった時代は記録する内容も洗練されていた。
紙を無駄にしないためにも選りすぐりの内容が残されていたわけだ。

それ故、書物というものは大変重要なものであり
それに触れるという事は本当に「知識」への純粋な憧れであったのだ。
だから本にはシンプルに「知識の宝庫」的な意味が付いて回っていた。


そして本は歴史を変えてきた。それは揺るぎない事実だ。
コペルニクスダーウィンアダム・スミスマルクス
比較的最近ではケインズフリードマンが書いた本も、
間違いなく歴史を動かした例と言えるだろう。

だがそれはやはり近代までの話なんじゃないだろうか。
情報を伝える有力なフォーマットが本くらいしか無い期間が、
人類の歴史の中であまりに長く続いていたわけだ。

しかし本の出版へのハードルが下がり、映像が生まれTV放送が始まり、
ネットが広がった現代では誰でも自由に発信が出来るようになった。
フォーマットとしての本の役目はもう一段落したんじゃないか。

でもやっぱり「本が凄かった」時代が長かった事もあって
「本を読む事こそが知識を得る最良の手段」という認識が根強い。
種々雑多な本が量産されるようになってからも、
「本」と言ってしまえば良質な知識の宝庫のような印象のままなのだ。

読書教から抜け出せ。

さて、本を読まない層の単なる文句に終始してしまいそうだが、
結局のところ、みんなうすうす気付いている話なんだよな。
「別に本なんて読まなくてよくね?」みたいな。そうだよ。
本なんてフォーマットに過ぎない。知識に触れる媒体はなんでもアリだ。

ではこの読書教の実体とはなんだろうか。
これはやっぱり一部に「本を読まないなんてけしからん」と
言いたい人達がいて、その考えで皆を縛りたいと考えてるんだと思う。

最近よく耳にするのが「本が売れない!」というニュースだ。
正確には紙の書籍の販売部数が下がって電子書籍は伸びているのだが、
ここで原因を本を読まない云々という話に帰結させたい人がいるんだよ。

でも何故本が売れないか考えてみてくれ。
それは本当に「若者が本を読まなくなったから」だろうか。
もっともらしい理由をつけてただ消費者のせいにしてはいないか。


本が売れない売れないと言われる一方で、
ここ数年は図書館の利用は増えているらしい。
つまり本の「アーカイブ化」がかなり進行していると言えるわけよ。

だから本も音楽と同じような話だ。
過去に膨大な数の作品が生み出されてアーカイブとなった今は、
わざわざ新作に手を出さずとも既存の作品で十分な状態なのだ。

新しいものにはそれはそれで期待と魅力があるものだし、
その時代ならではの表現というものも間違いなく存在する。
ただそれならば売る側は作品の魅力を最大限に訴えるべきだ。

なのに昔から存在している「本の権威」を振りかざすように
「本を読まないのはいけない。新刊を買え。」だとぉ?
ホント何様だよ。魅力のある本なら買うわ。だからそれを伝えてくれ。

俺も色々と音楽系の記事を中心に書いているが、
十把一からげに「音楽を聴け」なんて無茶は言わない。
そんなの「靴を履け」みたいなもんだぞ。それじゃ意味不明だろ?
ポイントは「どんな靴を履かせるか」って事なんだよ。
だから俺もこんな音楽をこんな風に聴こうよと書いてるつもりだ。

本を取り巻く環境は変わるよ。

音楽は定額聴き放題サービス、通称サブスクリプションが登場して
収益構造に大きな変化が生まれている。
日本ではまだまだだが海外では大分定着してきていて、
多くの人がより様々な作品と出会う機会を増やしている。

そしてamazonは定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を開始した。
書籍もそのうちサブスクリプションが登場すると言われていたわけで、
予定通りにそういうフェーズに突入したわけだ。驚く程の事でもない。

また電子書籍も、そのうち音楽アルバムの曲のバラ売りのように、
各章で価格が決められ細かい文章単位で売られていくかもしれない。
実際文章を売るという行為は既にメルマガやnoteのサービスが存在する。
価値のある文章なら本というフォーマットに捉われない時代にきている。


本当に本を読ませたいのなら頭ごなしの「本を読め」から脱却しよう。
時代は変わり今までの「本」の在り方は確実に変化に晒されている。

でも今も昔も「魅力的な文章を届ける」という事に変わりはない。
様々な伝達手段が生まれた現代だからこそ、
その基本をもう一度見直して本の存在意義を考えるべきじゃないかな。

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)
寺山 修司
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