脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】My Hair is Bad / woman's [2016]


戦争を知るべき大人たち。

woman’s(通常盤) woman’s(通常盤)
椎木知仁 My Hair is Bad

曲名リスト
1. 告白
2. 接吻とフレンド
3. 音楽家になりたくて
4. グッバイ・マイマリー
5. 戦争を知らない大人たち
6. 恋人ができたんだ
7. mendo_931
8. ワーカーインザダークネス
9. 革命はいつも
10. 沈黙と陳列 幼少は永遠へ
11. 真赤
12. 卒業
13. また来年になっても

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イメージでものを判断してはいけない。
頭では分かってはいるけどなかなかコレが難しいのだ。

結局ね、人ってのはある程度印象で判断してしまうもんなの。
なんだかんだ言っても人は見た目がうんたらとか言うしね。
むしろ見た目通りの中身だったらどこか安心したりするでしょ。

逆に無意識的に見た目通りじゃ無いケースを疑ってしまいたくなる。
だってほら、動けるデブとかなんか認めたくねーじゃん?
そういう事さ。ちなみに俺は動けないデブだ。見た目通りだ。安心しろ。


そう、このバンドMy Hair is Bad。俺は完全に誤解していたよ。
ちょっと斜に構えた英字のバンド名、そしてこのアルバムジャケット。
完全にメロコア系の英語詩バンドだと思っていた。マジで。

だから内容もなんとなく勝手に見えていた。
正確に言うと見えていた気がしていただけなのだが。
でもそのせいで、そこまで優先して聴かなければとは思っていなかった。

だが彼らの名前も最近色んなところで見るようになり、
昨年のこのアルバムも結構評判が良かったので、
まぁ英語詩メロコアもたまにはいいかなとか思いながら聴いた。

ごめんなさい誤解してました。

イメージしてたんとちゃう。ちゃうやん。
俺の馬鹿!俺のデブ!もう知らない!


彼らは2000年代以降の日本語オルタナ系バンドの流れを汲み、
かつそのラップのような語り口と歌詞のセンスに正直驚かされる。
素直に「こんな感じのバンドも台頭してきたのか…」と思ってしまった。

正直アルバム冒頭の辺りはそこまで好きでもなかった。
「アレ?英詩メロコアじゃないんだ」とイメージは覆されていたものの、
邦楽ロックの良くある感じが抜けきれていないバンドみたいな、
そんなやや薄めの印象を持ちながら聴いていた。

だがこのアルバム、中盤くらいから「おお」と思うような曲が続く。
特に『戦争を知らない大人たち』は非常に印象的。
むしろ単品でもこの曲は非常に価値を感じる一曲だ。

ご存知の方も多いとは思うけど、
1970年に発売されたジローズのヒット曲『戦争を知らない子供たち
のタイトルをパロった曲である。


だが、俺はこの『戦争を知らない大人たち』は、
単なるパロディーソングではなく上記のジローズの曲に対する
強烈なアンサーソングなのではないかと思うんよね。


70年代のフォークソング全盛期にはプロテスタント・ソングも流行し、
そんな中「戦争を経験した事がない子供たちには是非ともエールを!」
と言った趣旨で書かれたのがジローズの『戦争を知らない子供たち』だ。

だがMy Hair is Badが歌ったのは『戦争を知らない大人たち』だ。

どういう事か。それは歌詞を聴けば分かる。

幽霊も UFOも 宗教も 信じない
友情や 愛情や 日々の事情
優柔不断 迫られる決断
勇敢な勇者も 恋人に勝てない
テロが起こった日 飲み過ぎてゲロ
新聞に包まり 眠った子猫
眠れば なにも わからない

なにも 感じない

Good night… 

 

韻を踏んだ語り口調で綴られる自分達の世代の虚無感がここにある。

世間に馴染めず大人には受け入れられず、春夏秋冬と季節だけが巡る。
テレビから流れてくる喧噪も自分には関係の無い話。
飲み会行っても話なんて合うわけない。
死んじまった蝉の方が誇らしく見える。

…そんな彼らの叫びにもならない呟きが次々と流れ込んでくるのだ。

見分けのつかない ヤング雑誌 グラビア
見分けのつかない ゆとりだった 僕ら


…凄い。なんだか共感とかそんなレベルを通り越して胸が痛い…。

そう、これが今の若者達の「戦争」なのだ。
武器を持って争う事だけが戦争ではない。そんな事よりもっと身近な所、
若者は自分と周囲との軋轢の中で戦争を繰り広げる事で精一杯なんだ。

だからこれは「大人が知らない戦争」なんだよね。
世間に対して何も感じる事ができなくなってしまった若者達が、
それでも居場所を見つけるためにもがき苦しんでいる。
もう出来る事なら眠ってしまいたい。「Good night…」

『戦争を知らない大人たち』。物凄いアンサーソングだと思うよ。
子供達へのエールを送った曲にこんなカウンターを喰らわせるとは。
大人はちゃんと見て知るべきだ。今の若い世代の戦争ってヤツをね。


そして後半の『ワーカーインザダークネス』『革命はいつも』
『沈黙と陳列 幼少は永遠へ』の流れも良い。センスが良いというより
センスがぶっ壊れてる。四畳半フォークの時代の雰囲気を
現代風の邦ロックで焼き直すとこんな感じになるのか?うーむ…

あと恋愛ソングもいくつかある。
それも現代の若者の価値観らしい曲ではあるのだが、
どちらかというと俺は世界と断絶したような自分の感覚を表現した
葛藤ソングの方が彼らの持ち味だと思う。

なんだろう、ちょっとセカイ系的な匂いすら感じる。
My Hair is Bad、本当にイメージとは程遠いバンドだったよ。
だがそれもいい意味で期待を裏切られた感じ。恐るべし。


でも思えばこういうバンドってやっぱりその時代その時代に
ある程度必要なんじゃないかなーって俺は思うよ。
時代によって形は違えど、若者の気持ちを語り伝える。

若い人に人気のバンドなんだろうけど、
むしろ大人にこそ聴いて欲しいバンドだ。
そんな事を思った。まぁ現実にはそうとはいかないだろうけどさ…。

【採点】
・イメージしてたんとちゃう 30点
ジローズへのカウンター  30点
・大人にこそ聴いて欲しい  20点
・動けないデブは只のデブ  -1点
79点