脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】Mr.Children / Atomic Heart [1994]


ロックの教科書改訂。

Atomic Heart Atomic Heart
Mr.Children

曲名リスト
1. Printing
2. Dance Dance Dance
3. ラヴ・コネクション
4. Innocent World
5. クラスメイト
6. Cross Road
7. ジェラシー
8. Asia(エイジア)
9. Rain
10. 雨のち晴れ
11. Round About ~孤独の肖像~
12. Over

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ミスチルが今年でデビュー25周年という事で、
25曲の豪華なベスト盤を2枚発表していたぞ。

ro69.jp


ただこれは配信限定のため、あまり話題にはなっていないっぽい。
収録曲もファンにとっては「いつもの」って感じで
別に目新しくもないしね。何曲か「おおっ」って思う曲もあるけど。

ただミスチルのような超大物が配信限定という手法で
ベスト盤を売り出したのは結構大きな動きなんじゃないかな。
まぁフィジカル盤としては5年前にもベストを出していたので、
あまり大々的に売り出すと「またか」って感じにはなりそうだけど。


さて、というわけで今日はそんなミスチルの歴史を振り返る上で
絶対に欠かせないアルバムと言うか、個人的には邦楽史を語る上でも
避けては通れないアルバムと思っているのが今回の題材だ。

ミスチルの大出世アルバム『Atomic Heart』である。
大げさでもなんでもなく、邦楽のターニングポイントの一つだ。
日本のロックの方向性をいい意味でも悪い意味でも
大きく変えた、変えてしまったアルバムだと俺は思うのよ。


ミスチルは言わずと知れた国民的バンドとして認知されているが、
彼らに対する世間の評価というのは世代によって結構違っているようだ。

80年代以前に音楽を熱心に聴いていた層はミスチルの良さがイマイチ
分からないと言う人が多いと思う。俺の周りの人間は大体そんな感じ。
しかし90年代J-POP全盛期以降に音楽を好きになった人間には
ミスチルの曲を好意的に捉える人が多い。あくまで傾向として、ね。

これは単にミスチル世代だったかどうかという規模の話ではなく、
ミスチル的な音楽」全般に対する抵抗感があるかないかという話だ。
ミスチル的な音楽って何よって言われるとちょっと困るが、
そこは感じとってくれ。ほら、あんなカンジの曲だよ。コバタケ的な。


今40歳以上の方にはミスチルに限らず、
ミスチル的な音楽」全般に対して良く分からないという人が結構いる。
「嫌い」ではなく「何故ウケているのか分からない」的な感じ。

だが、俺らの世代はむしろ邦楽のバンドといえばもう
ミスチル的な音楽」こそが一つの正義みたいな感覚さえある。
それ以外のフォーマットの方がむしろ異質に聞こえる程に。

おそらくその感覚の境目にあるのがこのアルバム、
『Atomic Heart』なんじゃないかな。
このアルバムがリリースされた1994年以降、
邦楽ロックはこのアルバムが一つの大きな壁となってしまったのよ。


そうなった理由は物凄く簡単で、めちゃ売れたからである。
1994年当時としては歴代最高の売上340万枚を売り上げた。
邦楽バンドのオリジナルアルバムとしては今もなお歴代1位。
そう「バンド音楽が音楽市場の頂点に立った」瞬間だったのである。

勿論それまでも人気を博したロックバンドは何組もいたわけだが、
ここまで爆発的に売れて誰の目に見ても明らかに邦楽シーンの
トップに君臨していたと言えるほどの人気バンドはいなかったハズだ。


確かにこのアルバムは内容としても良いアルバムだと俺も思うよ。

冒頭からノリの良い『Dance Dance Dance』へと繋がり、
1994年の年間1位となった『innocent world』や
大ヒットシングル『CROSS ROAD』等を経て、
切ない歌詞をポップに歌う『OVER』で終わる。

ゴリゴリのロックサウンドではないけど心地よい音楽。
当時の若者の心をしっかりと掴んだ音楽。
そして今の若者にも通じる普遍的な音楽だ。

今でこそ「J-POPみたいな音楽」で片付けられるかもしれないが、
当時はミスチルフリッパーズ・ギターのような
渋谷系の文脈で語られる事もあったらしいので、
ミスチルをJ-POPと断ずるのも結局は後付けに過ぎないわけで、
1994年はこのアルバムこそがナウいヤングの音楽だったのだ。


ただこれは果たして「ロックバンドの音楽」なのか。
それこそが最もこのアルバムの深い問題点なんだと思うし、
ミスチル世代より上の世代が彼らを良く分からないのもその点だろう。


俺個人としては
「時代を塗り替えた」という事は一つのロックな出来事だと思う。
いつの時代も人々に新鮮な感覚を与えた作品が芸術的と言われてきた。
このアルバムが音楽シーンを刷新したというのは揺るぎない事実だ。

このアルバムが無かったらこれ以降の邦楽市場は
大分違った様相を呈していたに違いないだろう。
だからそういう意味で間違いなくこのアルバムはロックだったのだ。


だが、それと同時に「ロックじゃない」という方々の意見も分かる。
確かに「ロック」と言いきるには多少の違和感を覚えるのも事実。

「別にロックじゃなくてもいいじゃん、ミスチルミスチルだよ」
というもっともな意見は今回は無しだ。
そういう方はまっとうな道を進んでくれ。
邪道な俺はミスチルをロックと呼ぶ際の後ろめたさについて考えたい。


このアルバムの違和感の正体は、これ以降「バンドで夢を見る」事の
「売れて儲ける」的な側面がより強くなった事ではないかなと思う。
ミスチル的音楽=売れ線音楽というイメージが定着してしまったのだ。

基本的に斜に構えて世間を見ている「本物のロック」とやらの愛好家は
商業主義的な音楽に嫌悪感を抱いては「だせー」と唾を吐く事が日課だ。
あああああ昔の俺を思い出すああああああ。
だから今、その観点に立てばこのアルバムは「商業的」とも言える。

ロックというのはメジャーに対するカウンター的な姿勢を是とするのだが、
そのロック側と思われたミスチルが爆売れしちゃったもんだから、
カウンター対象がミスチルになってしまうという事態になったのだ。


しかしここまではまだいい。
ある意味では既存の音楽にロックが勝利したとも換言出来るからだ。
いつの時代も若者の音楽こそが市場を彩ってきたのは事実だし。

だがむしろ今回の話で肝心なのはこのアルバム以降なのだ。
これ以降「ミスチル的な音楽」が「邦楽ロックの教科書」になった事。
そしてその教科書が今も尚絶対的な力を持っている事が一大事なのだ。


ロックに限らずサブカルチャーポップカルチャー全般は
マリカーで言うところのトゲゾーの投げ合い合戦であり、
トップの走者が常に攻撃されながら交代を繰り返すのが常である。

しかしこの「ミスチル的な音楽」に対する明確なカウンターが
それ以降現れなかったどころか、むしろ世の大半のバンドが
ミスチル的音楽での商業的成功」を目指し始めたような、
しかもそれが無意識レベルで今も邦楽シーンに染みついている感すらある。

つまり、ロック的価値観からすると
売れすぎたヒール役ポジションに居座り続けるミスチルの存在は
いくらバンド形式とは言え、やはり違和感を拭い去れないものなのだ。


バブル崩壊後、世間にも閉鎖的なムードが漂い始めた90年代中盤、
未来に期待が出来ない若者たちは新時代を切り開くリーダーよりも
自分の拠り所となるような場所を求めるようになったのだろうか。

そしてそんな世の中のムードにハマったミスチルの音楽は
ハマりすぎたが故に誰からも無理に塗り替えようとされないまま、
J-POPシーンの盛り上がりと共に邦楽の正義として固定化された。


だからこのアルバムは「大きな壁」って事なんだよね。
社会的背景、そして2000年代以降のCD市場全体の落ち込みもあって
ミスチルが打ちたてたこの金字塔は最早絶対的なものになっちゃった。

勿論良いアルバムだよ。今聴いても全く古さを感じない。
だがこの作品が今の時代にも地続きで聴けてしまう程の音楽という事が、
逆にミスチルの楽曲が蔓延してしまったという事の裏返しでもある。

だからここがまさに境界。「ミスチル的音楽」をすんなり聴ける世代と
そうでない世代の境界線がこのアルバムにあるのだと思う。
このアルバムの良さが分かる世代は以降の邦楽も普通に聴ける。
それくらいにこのアルバムは教科書的なポジションにいるのだ。


そしてここが非常に歯がゆいところでもある。
新たなロック音楽にミスチル的音楽が駆逐されていれば
むしろ逆にミスチルの音楽も今では「あれはロックだった」と
より多くの人に言われていたに違いないと思うからね。

そんなわけで、確かに良いアルバムなんだけど
これがメガヒットしたお陰で邦楽はこのアルバムの亡霊に取りつかれた。
だからこのアルバムは良い意味でも悪い意味でも、
影響が大きかったという話でした。説明がうろうろしてて、
結局なんだか良く分からん感じになったな。すまん、コレが俺の限界だ。


でもミスチル自身は悪くない。
ミスチルはこの後に『深海』等と言うとんでもない代物を発表するし。
というかどこにも悪い人なんて存在しないのかもしれない。
敢えて言えば時代が悪かった。『Atomic Heart』が売れまくった時代が。

ロックの定義なんて人それぞれ。そんな事は前提だけど、
しかし邦楽の歴史におけるその価値観の転換点を語るとすれば
間違いなくこのアルバムは重要な一枚であるだろう。

ミスチル25周年、改めてこのアルバムの大きさを感じますね。


【採点】
・25周年おめでとう  25点
ミスチルの大出世作 30点
・邦楽ロックの転換点 20点
・誰かに超えて欲しい壁 5点
80点