脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Song】ハチ(米津玄師) / 砂の惑星 feat.初音ミク [2017]


ボカロ界、下火になるか?上向きになるか?


去る2017年8月31日は、
かの有名な初音ミクさんの10周年バースデーだった。

記念すべきアニバーサリーとあってネットを中心に
結構盛り上がりを見せたようだ。つーかみんな大丈夫だったんかな。
8/31なのに夏休みの宿題とか大丈夫だったんかな。
ちなみに俺は夏休みの宿題とか期限内に完遂した記憶は無い。


しかしもう初音ミク生誕から10年か…。
当時のボーカロイドの黎明期のあの空気を味わった身としては
もうそんなに経つのかぁという感慨深さがある。

あの頃は俺も大学生で、知人が初音ミクのソフトを持ってたので
少し触らせてもらったんだけど正直良く分からなかった覚えがある。
あれって結構玄人向けのソフトじゃない?
扱える人凄いよね。今やってみると実はそうでもないのかな?


初音ミクについては数年前に衰退論が流れて話題になった事があった。
若者のボーカロイド人気がピークになって世間への認知が進んだ一方で、
もう初音ミクはかつての初音ミクではなくなったといったような主旨。

確かにここ数年は以前ほどにボカロの人気曲が生まれなくなっていて、
2011年、2012年頃のボカロの盛り上がりを思えば、
昨今は寂しい状況が続いていたと言えるのだろう。

そんな俺自身はというと、
実はもう2010年頃からボカロ界隈への興味が大分薄れてしまっており、
それ以降も有名曲はぼちぼち聴いてはいたんだけど
以前ほどに流行りを詳細に追うような熱は既に無くなっていた。

つーか2010年頃からAKB48にハマっており、大島優子と握手してた。
いやー大島優子の笑顔は素敵だったなー。Not yetも良かったなー。


というわけで今回の曲、『砂の惑星』だ。
英語のタイトルがDUNEなのはSF映画の『砂の惑星』を意識してる?

かつてボカロP(ボーカロイドで曲を発表する人の通称)として人気を誇り、
今や若者から絶大な支持を集めるアーティストとなった米津玄師が
ハチ(ボカロP時代の名義)として今年発表した曲である。

先日行われたイベント、「マジカルミライ」のテーマ曲として、
そして初音ミク10周年の曲として制作された曲だが、これがまた良いの。
もうため息が出ちゃう。こういう事をさらりとやっちゃう米津はマジで凄い。


だがこの曲の凄さを味わうためには
ちょっとボカロについての予備知識が必要だ。
ボカロ文化に疎い人が聴くと「ちょっと気持ち悪い曲」な感想で終わる。
俺の嫁みたいに。だから簡単にボカロの歩みをざっとおさらいしたい。


この10年のボーカロイドの歴史を振り返ると
興味が無い人からすれば全く知らないんだろうけど、
恐ろしく目まぐるしい変化に富んだ奇跡の10年間だったんだ。

もともとは「音楽ソフト」に過ぎなかったハズの初音ミク
要は自分が作った曲を歌う人がいない時のための音声ソフト。
人間の代わりに歌を歌ってくれるソフトウェアというのが本来の役割だった。

しかしクリエイター達がその初音ミクのキャラクター性に注目して、
初音ミクとしての歌」を発表し始めたのがまさに全ての始まりだ。
Youtubeニコニコ動画などの動画投稿サービスの広がりと共に、
初音ミクはネットを中心にファンを増やしていく。



だが、そんな初音ミクにも転機が訪れる。
初音ミクに「初音ミクとしての歌」を歌わせるのではなく
クリエイター達が自分の曲を世間に披露するために
初音ミクをツールとして使って歌わせた曲が流行った。

それらの曲からは「初音ミクである必然性」が失われていたのだ。
まぁ初音ミクのもともとの目的がそうなので当たり前っちゃ当たり前だが。

特に大きな影響を与えた曲が『メルト』。
その楽曲の良さからメルト関連の動画が
ニコニコのランキング上位を独占するという
「メルトショック」と呼ばれる事件が起こった。



そしてこの頃から初音ミクは若者を中心に大きく盛り上がりを見せる。
良曲が量産された時期だ。初音ミクのキャラクター性が消えた事で、
皮肉な事に普通に良い曲が次々と発表され隆盛を極めたのだ。

以降、車のCMにも使われ紅白でも小林幸子によって披露された
『千本桜』や後にアニメにもなった『カゲロウデイズ』等がヒット。
初音ミク5周年の2012年くらいの頃までボカロは最盛期だった感じ。


しかしこの頃には俺はもう大分ボカロに対して
俯瞰的なポジションを決め込んでいたので、
これ以降の詳しい動きについては正直良く知らない。

だが、俺がそうなったように多くの人が自然と離れていき
昔のような盛り上がりを見せる事はかなり少なくなったようだ。
飽きたわー。俺が最初に飽きたわー。などと言うつもりは無いが、
どんなものでも浮き沈みってあるもんだ。それだけの話。


というわけで長々とこの『砂の惑星』を楽しむための前置きを書いたが、
正直もう疲れた。なんか前置きでほぼこの話終わってる気がしてきた。
もうこれから前置き以上の事書ける気がしないけど頑張る。


さて今回の曲、今をときめく米津玄師の久々のボカロ曲という事で
発表されるや否や大注目を浴びる事になった。
なんとボカロ史上最速でミリオン再生を達成したらしい。

そして俺もまさにこれこそが米津の本領発揮だと思ったよ。

出だしからちょっと胃液が戻ってきそうな不気味なイントロ。
これだよコレ、このマニアックな臓器を狙ってくる感じ。
これこそが米津の真骨頂だよ。打ち上げ花火よりやっぱこっちだよね。



ああ、でも打ち上げ花火もいいなぁ
米津は本当に曲の幅が広いよね。こんな曲もやっちゃうんだもん。

ちなみにこの話題の映画
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は
かなり酷評みたいで観るにはちょっと勇気がいるとか思ってるんだけど、
シャフトだしなずなちゃんがめっちゃひたぎさんだし正直気になる。
てかシャフトと岩井俊二が一般受けしないってだけの話じゃなくて?

さて、そんな華やかな花火とは真逆のイメージの曲『砂の砂漠』。

ボカロ10周年イベントのテーマソングにしては
かなり地味で暗い曲を持ってきたなとも思ったけど、
実はこれはかなり攻めの曲だった。

この曲はこのボカロ10年を総括しそして今後のボカロ業界を見据えた
米津からの挑戦的なメッセージとも言える曲だったのだ。


一見捉えにくい歌詞の随所に埋め込まれているのは
この10年間で生まれたボカロヒット曲の歌詞の断片達だ。
さらにメルトショックというワードまで入っているから面白い。
どの曲が元ネタなのかをファンの方が早々に洗い出していた。

そして動画に映るのは北斗の拳チックな退廃した世界を
世紀末ヤンキーみたいなスタイルで練り歩く初音ミクの姿。
そして動画の途中で挟まれている可憐な初音ミクのカット。


そう、この動画で描かれているのはかつて隆盛を極めた都市が廃れて
そこで昔の華やかだった自分の姿を回想しながら歩くミクの様子だ。
つまりかつてのボカロの世界を振り返っている動画なのである。
ああ、やっと前置きが活かされたっ。報われたよ俺っ。

歌詞も過去のボカロ作品を参照しているものの
全体的にネガティブであり、枯れ果てた土地からの脱却を示唆している。
米津自身が今のボーカロイド文化に対して思っている内容なのだろうか。

それに初音ミクの曲なのに米津自身が歌に加わっている辺りも気になる。
初音ミクに全て歌わせずに生身の人間の声を敢えて混ぜる事で、
初音ミクの存在意義を問題提起しているという風にも受け取れる。
ボカロの世界は今はもう『砂の惑星』であり、初音ミクもグレかけて
自分で歌う事すら忘れかけている、そんな辛辣なメッセージ性も感じる。



だが、俺はポジティブな見方だってあると思う。

だって今年出たこの曲が史上最速ミリオンを達成したんだぜ?
ボカロもまだまだ全然いける。この曲がそんな機運を高めてくれたんだ。
こんなに挑戦的な曲なのに多くの人がこれを観て感銘を受けたんだよ。

そして先日の初音ミク10周年の誕生日で、
また再びボカロ界隈が盛り上がっている様子が分かる。
なんだかんだで記念日ってのはお祭りだ。めでたい事なんだ。
皆が初音ミクの存在を再認識するには絶好の機会だ。

これらの事を起爆剤にしてボカロが再燃する。
10周年を機に再びボカロがかつての盛り上がりを見せる時が来る。
そんなムードが出来上がってきてたりしない?

砂の惑星』ってのは確かに荒廃した土地というイメージではあるが、
逆に「これからまた自由にやり直せる」といった意味もあるんだよ。
米津は賢いからそれくらいの事はちゃんと考えて作っている。
そういった色々な意味を込めて今回のこの曲を敢えてハチ名義で発表したんだろう。


初音ミクは10年間で本当に多くのクリエイターを「救ってきた」と思う。
初音ミクのお陰でその才能を多くの人に認知して貰う事が出来た人々。
もし初音ミクがいなければ彼らの才能はきっと埋もれていたに違いない。

だからこそ初音ミクのアニバーサリーは
初音ミクへの感謝の言葉でいっぱいだった。
初音ミクがいる時代に生まれてきて本当に良かった。
クリエイターにもリスナーにもそんな人達は沢山いるんだよね。


どんなに人気なアーティストも旬というのはなかなか続かない。
だが初音ミクはもう10年も続いているんだと考えると凄いじゃない。
これはクリエイターの方々が優秀である事も勿論そうだけど、
ファンの力がとても大きいんじゃないかな。

ファンというのは時に優秀な語り部となる。
それの何が魅力なのかを語り継いでいく役割だ。
幸いネットの世界というのはそんな優秀な語り部が多い気がするのよね。

初音ミクはその優秀な語り部達が魅力をプッシュしてくれていたお陰で
10年も続くコンテンツに成長した。長かったようで早かった10年。
初音ミクはまさにネット時代の象徴的存在となったのだ。


そんなネット時代の寵児として今や超売れっ子となった米津玄師。
彼が初音ミク10周年で投下していったこの曲はとても意義深いものだった。
ちなみにこの曲は次の彼のアルバムに収録されるらしい。

これからのボーカロイドの世界、下火になるか?上向きになるか?

とりあえず俺は今くらいの距離感で今後も注目していたいと思う。


【採点】
初音ミク10周年!  10点
・米津の本気モード  30点
・強烈なメッセージ性 30点
・打ち上げ花火が気になる…
           10点
80点

BOOTLEG(通常盤) BOOTLEG(通常盤)
米津 玄師

曲名リスト
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