脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

映画『若おかみは小学生!』をスルーするな。


小学生に泣かされろ。


しがない音楽雑記ブログなんてやってる俺なんですが、
ここ日本で話題になりやすいのってやっぱりアニメだと思う。
昔はそうでも無かったと思うけど最近はやっぱりアニメが強い。

これは土着的なもんなのかな。かくいう俺もアニメは好きなんで、
振り返ってみれば過去にも結構アニメの話してきた。
音楽の話題がアニメ人気の波に押しつぶされそう…!

だから音楽で最近良かったアルバムは何かという話題よりも、
今期の覇権アニメはどれかみたいな話題の方が盛り上がりがち。
みんなアニメの話好きなんだろ?知ってる。だからまたやっちゃう。

映画『若おかみは小学生』を観たか


さて、昨年2018年のベストアニメ企画も色々あったようだが
その中でも意外に人気だった作品が『若おかみは小学生!』だ。
特に劇場版の『若おかみは小学生!』は非常に注目されていた。

昨年も結構色々な映画が話題になった年だったと思う。

この劇場版『若おかみは小学生!』もそんな話題作品の1つ。
公開の規模的にはさほど大きくなかったんだけど、
ネットを中心に口コミが広がりロングラン上映する劇場もあるらしい。


俺もこの作品が子ども向けアニメとして
日曜日の朝に放送されていたのは知っていたけど、
正直『若おかみは小学生!』なんてタイトルだし
小学生向けだろくらいの認識で完全にノーマークだった。
「若女将」が「若おかみ」とひらがな表記なのも小学生だし。

しかし昨年秋に公開された劇場版がやたら良いという評判を聞いた。
そんなにいい映画なら観てみっかなーと軽い気持ちで
昨年末に最寄りの映画館に観に行ったらやられた

こういうダークース的な作品に
不意打ち喰らわせられるのが一番効くんだよ…。
子ども向けと油断させておいて大人にクリティカルなヤツ。
やめてくれ。そういうのはもうプリキュアだけで十分だ。


さて、この『若おかみは小学生』というのは
原作は小学生向けの児童文学らしい。
俺が小さい時には無かったけど、
最近の小学校では学級文庫的な扱いで置いてあるのかな。

学級文庫と言えば口を指で左右に目いっぱい引っ張った状態で
「学級文庫」と発音しようとすると
「がっきゅううんこ」になるあのくだらないネタが懐かしい。

おそらく最近の子どもには馴染みのある作品なんだろうな。
アニメで主人公のおっこ役の声優を担当した小林星蘭も
自分が小学生の頃に読んでいた作品だっだとか。

そんな人気作品がテレビアニメ化したという事もだけど、
何より劇場版の出来があまりに良いという事で
アニメ好き・映画好きの間でもその噂が広がり始めた。
新海誠田中圭一がツイッターで褒めちぎっていた事も大きい。

もともとこのアニメは劇場版制作の話からスタートしたらしいね。
結果的にはテレビ放送が終わるタイミングで公開になったようだけど、
劇場版だけでもストーリーはちゃんとまとまっている構成との事で
テレビ版を観た事が無い人でも十分に楽しめるという話だった。

つーても俺も実際に映画を観るまでは、
どーせネットで絶賛する声がやたら大きいだけで
ハリウッドザコシショウ的な誇張表現なんだろくらいに思ってた。

原作は読んだ事ないけど、事前に少し調べてみた感じだと
ちょっとファンタジーチックな児童文学かなって内容だったし、
まぁ映像が綺麗とかそんなところかなーと思って観たらクソ泣いた。

というわけでかなり遅くなったけど、
(多少のネタバレを含むけど)是非多くの人を泣かせてやりたいと思い
昨年のベスト級だったこの映画を紹介する。

”重い”出来事も”綺麗に”描く




貴重な平日の休みを使って朝から映画館に行ったら
(つーか若おかみは朝しかやってなかった)観客は俺一人
実は人生で初めて観客が俺一人のみでの映画鑑賞だった。
俺がいなかったら上映ってどうなってたんだろうとか考えた。

映画の導入部は主人公のおっこ(関織子)が
旅館でおかみとして働き始めるまでのくだりだ。
事故で両親を亡くして一人だけ遺されたおっこは、なんやかんやで
引き取ってくれたおばあちゃんの旅館でおかみとして働くことに。

冒頭の事故のシーンとかが結構リアルだったり、
子どもが労働させられて少し可哀想とか思わないでもなかった。

でも旅館に住みついていた幽霊にうまくそそのかされて
おかみになったりとかちょっと強引な物語展開だったので
その辺りのドタバタコメディ的な路線は子ども向けだなぁと思った。


しかしこの幽霊たちの登場は非常に物語の核心的な部分でもある。
おっこは事故で両親を亡くして以来幽霊たちが見えるようになった。
だが物語が後半のクライマックスになるにつれて見えなくなっていく

子どもの成長とともに見える景色が変わっていくという、
どことなくジブリの『魔女の宅急便』的な構成である。
そういえば紅白のユーミン良かったなぁ~。

ちなみにこの映画、スタジオジブリ作品の作画監督でもある
高坂希太郎が監督という事もあって、映像の描写がとても鮮やかで
かつ示唆に富んだ表現が特徴的で丁寧な仕上がりだった。


この映画の大きなコンセプトは
「子どもが受け入れる身近な「死」」についてだった。
主人公のおっこがいかにして”両親の死”と向き合っていくのか、
それをアニメ作品としてどのように見せてくれるのかが見所だ。


おっこは旅館で若おかみとして働き始め、
色々な人物と出会いそして様々な経験を積んでいく。
その中で両親の死という事実をどう受け止めていくのかが描かれる。

(これは映画を観て最終的に分かることでもあったんだけど、)
実はまだおっこは正面から両親の死を認識出来ていなかったのだ。

幽霊が見える状態のおっこは両親が生きていると錯覚するかのように
お父さんお母さんの幻をそばに感じている事があって、
まだ素直に両親の死を本能的に受け入れられない心理状況だった。

しかし物語は進み色々な出来事を経て
おっこは次第に両親の死という重い事実を実感していくようになり、
そしてクライマックスのエピソードはそれはもう胸が苦しくなった。

観ている俺も「おっこ負けるな!」と思わず拳を握りしめていた。
プリキュアの映画で子どもが皆「がんばれー!」と
叫んで応援しているあの感覚が俺にも分かった。
映画館で一人だったしなんなら俺も叫んで良かったのかもしれない。

最終的におっこは、それまで一緒に旅館を盛り上げてくれていた
周りの幽霊たちが見えなくなってしまうものの、
両親の死という壮絶な出来事を時間をかけて乗り越えていく。

拍手喝采だ。スタンディングオベーション。
いや、そこまではしなかったけど。
でも映画館で一人だったししても良かったのかもしれない。

小学生にとって「死」は難しい。




俺もね、30歳を過ぎたしそれなりに人の死は経験してきたつもりだ。

俺は家庭の事情で両親の元を離れ祖父母の元で育った事もあって
祖父母の死を経験した事である意味で育ての親の死は通過したし、
同じく30歳くらいで若くして亡くなってしまった友人もいる。

だが俺がこの映画を観てふと思い出したのは曽祖父の死だった。

あれは俺が小学生の時だったかな。
そしてきっと俺が最初に経験した「身近な死」だったと記憶している。

俺はひいじいちゃんが好きだった。遊びに行くととても喜んでくれたし
いたずらしても怒られないしとにかく可愛がられていた。
あと当時は良く知らなかったけどかつては地元の市長だった人らしい。

だが俺が小学生、それも多分まだ低学年の頃だったろうか。
突然「ひいじいちゃんが亡くなった」と聞かされた。
周りは連日お通夜だのお葬式なのでとても慌ただしくなった。

俺は最初、本当に良く分かっていなかったんだと思う。
お葬式などに出席しても「早く終わんないかなー」くらいで
あの好きだったひいじいちゃんの死というものが想像出来なかった。

だが葬儀などが一通り終わって周りが少し落ち着き始めた頃。
やっと俺はひいじいちゃんにもう会えない事が理解できたんだろう。
急に俺は一人で泣きだしてしまったのだ。それはもうわんわん泣いた。
あのときの事は覚えている。突然泣きだした俺に周りは戸惑っていた。

それまで「痛い」とか「怒られた」とかで泣く事はあったけど、
多分本当の意味で「悲しくて泣く」という経験は
あれが人生で初めてだったんじゃないかなぁ。


そう、小学生が「人の死」をちゃんと認識できるのは遅いのだ。
俺はひいじいちゃんですら結構遅れて実感が湧いてきたので、
両親という最も身近な存在を小学生で失ったおっこが
その現実を認めるまでにはかなりの時間を要するのも当然なのだ。

この映画はそういった子どもが直面する「死」を軸にして
小学生のおっこの心の変化をとても精巧に描ききっている映画なのだ。
子どもにとって死は残酷だ。でもいつかはきっと知ることになる。

死を扱った作品はこれまでにも沢山あるわけだが、
アニメという形式の持つメリットを最大に引き延ばして
「子どもが直面する死」という視点でこの手のテーマに肉薄し
これほどまでの純度で見せてくれる映画があったとは…。

子ども向け映画の皮をかぶった恐るべきポテンシャルの映画だった。
色んなところで絶賛されている理由も分かる。
こりゃ確かに舐めてかかると返り討ちに遭うぜ…。

『ジンカンバンジージャンプ』を聴きたい!


またストーリーや映像美が注目されがちな本作だが、
勿論音楽も良かった。アニメらしいあどけなさだけではなく
時にはノスタルジックだったりちゃんとシリアスだったり。

で、エンドロールを観てたら音楽の担当に鈴木慶一の名が。

なんと、邦楽ロックの草分け的存在の一人であり
はちみつぱいやムーンライダーズに在籍していた人物である。
他のアニメ映画だと『東京ゴッドファーザーズ』の音楽も彼。
これまた凄い方を起用していたんだなぁ。

そして劇中でおっこが宿泊客の一人、占い師のお姉さんに気に入られ
一緒に車で街に出かける時に流れた『ジンカンバンジージャンプ』
声優の小林星蘭さんが歌っていて凄い良い曲だったんだけど
なんと音源が発表されておらずもう一回聴きたくても聴けない!

今度の映像ソフト発売に合わせて発表してくれないかな~。

あと映画の主題歌は藤原さくらの『また明日』。
映画に沿って作られた曲で、ゆっくり前を向けるようなそんな曲です。



こちらは藤原さくらのアルバムに収録されてます。

という事で、観て。


というわけで最近観た作品の中では
俺もイチオシだった『若おかみは小学生』。
まだ上映中の地域の方は是非観て欲しいし、
見逃した方はレンタルしてでも観て欲しい。

人生の中で何度も経験するであろう「別れ」という出来事に、
向き合える勇気をおっこから少しでも貰えればいいなと思います。

人間ってのはいくつになっても弱くて脆い生き物だけど、
でも弱くても泣き虫でもいいから、前だけは向いていたいですね。