脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】Suchmos / THE ANYMAL [2019]


昔のSuchmos もう Good night

THE ANYMAL THE ANYMAL
Suchmos

曲名リスト
1. WATER
2. ROLL CALL
3. In The Zoo
4. You Blue I
5. BOUND
6. Indigo Blues
7. PHASE2
8. WHY
9. ROMA
10. Hit Me, Thunder
11. HERE COMES THE SIX-POINTER
12. BUBBLE

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アーティストってのは誰のために音楽を作るんだろうか。

「ファンのため」…もっと言えば「お客様のため」なんだろうか。

いや、それはやっぱり本質的な答えでは無い気がするね。
それに俺もアーティストにはむしろそうであって欲しくはない。

アレだ、会社が「すべてはお客様のため!」とか言ってるのに対する
不信感と同じ類の感情を抱いてしまう。そんな美辞麗句は聴きたくない。
言ってしまえ。「すべては株主様のためぇぇぇ!」と。楽になるぞ。


だからアーティストも「ファンのため」に音楽を作るとか言いつつも
実際のところは「事務所、レーベル、レコード会社のためぇぇぇ!」

……ではなくて、素直に「自己表現をしたいから」であって欲しい。
その表現の結果としてファンがついてくればそれがベスト。
勿論ファンを大事にするのは素晴らしいことだが、
そのせいで自分自身の表現を見失ってしまうのは悲しい事だろう。


さて、サチモスファンの皆様。
いや、正確にはサチモスファン「だった」皆様がいいかもしんない。

『STAY TUNE』の頃がもう遥か昔の出来事のようですね!



いやぁ、最近元気?うん、分かるよ。元気じゃないよね。
言い方を変えよう。正気を保てましたか?保ててないよね。知ってる!


あのスタイリッシュで時代の最先端感があった音楽を武器に
シーンに新しい風を吹かせ一世を風靡したサチモスさん。
昨年末は紅白にも出場し「臭くて汚いライブハウスから来ました」と
なかなかナイスな吹っ掛け方をしたサチモスさん。クールでしたよ。

その最新作アルバム『THE ANYMAL』が出た。
俺はちょっと聴くのが遅れてしまってたんだけど、
このアルバムが発売されて以降もう皆のざわつき方がハンパなかった


「サチモス変わりすぎ」「もうあの頃のサチモスはいない」
「STAY TUNEを返せ」「YONCEってカミナリのたくみ君に似てる」

俺だってそれなりに音楽をこれまで聴いてきた人間だからさぁ、
「変わった」なんて出来事はもう何度も何度も経験してるわけ。
でも変わったなぁって感じる事は確かに多いんだけど、
もう本当の本当に別人レベルに変化するケースは滅多に無かった。

だからさ、今回のサチモスのアルバムだって聴く前は
みんなが変わった!変わった!なんて騒いでいても
「言うてそんな変わってないんやろwみんな大袈裟すぎ~ww」
くらいに思ってたわけですわ。




変わりすぎぃぃぃぃぃぃ!


もうコレ、ファンを根こそぎひっくり返すレベルですやん!
別人っすよ別人。YONCEがマジでたくみ君になったレベル。

ここまでバンドが変化した例はそうそう無い。
つーか何があったんか心配になるぞ。
怪しげなカウンセリングとか受けたりしてないよね。


まぁいい。彼らがどういう心境なのかは分からないけど、
無事元気に生きていてくれたら俺はそれでいいのだ。
そしてそれはそれで置いておくとして、だ。

このアルバム、かなり俺好みなのである。


ヒットした『THE KIDS』も良いアルバムだったんだけど、
この『THE ANYMAL』も別の方向性で濃厚な良さがあるアルバムだ。

プログレっぽいんだよね。それもピンクフロイドっぽい。

そして俺はピンクフロイドが好きなんだ。
確かにこのアルバムはサチモスの大転換だけど、
これはこれで好きなアルバムだ。いや、スゲーよサチモス。


んーまぁ今思えば、前作のミニアルバム『THE ASHTRAY』から
なんとなーく変化の匂いは漂ってはいた。



前作の収録曲でNHKのワールドカップのテーマ曲になったけど、
その気軽にノれないずっしり感から「合ってない!」と
猛批判を浴びた問題作『VOLT-AGE』。

みんな倍野菜って馬鹿にしすぎだろ…俺好きなんだけどなぁこの曲。
つーか海外だってホワイトストライプスの『Seven Nation Army』が
サッカーのテーマ曲なんだぞ。そう考えると別にいいんじゃん?


とにかくだ、今考えると予兆が無いわけではなかった。
しかし、それにしても予想の遥か上を行く変わりっぷりだ。
これまでのファンの事とか絶対考えてないぞサチモス。
「これが俺らのやり方だ」という強気な姿勢が窺い知れる一枚だ。

オープニングの『Water』からして
もう「あれ?サチモスなんか違う?」感が満載だった。



でも一曲目だし、少し枕的な曲を挨拶代わりに入れてるのかと思いきや
その一曲目が挨拶代わりにしては7分くらいもあるし、
そして以降の曲もずっとそんな感じの長尺の曲ばっかだし、
これはもう完全にこれまでのファン置いてけぼり確定でしたわ。

だがこの『Water』がまたいいんですよ。
プログレ好き、特に初期ピンクフロイド好きにはバッチリ。
2曲目の『Roll Call』は重厚なサイケ曲でまた良し。
お次の『In the Zoo』もピンフロぽくて好みの曲だ。

『Indigo Blues』なんて11分を超えてて、
でもこれがまた間奏のギターの浮遊感とか溜まらないのね。
そして全部で73分という長尺アルバムとなっている。
プログレ好きなら慣れたもんだろうけど。


そう言えばジャケットのデザインが
あのプログレの名盤、イエスの『危機』に似てなくもないと思ったり。




やっぱりそういう70年代の路線を意識した作品という事なのかな…。


だがリード曲である『In The Zoo』では

夢も希望も無いのかい?救ってよロックミュージック

なんてちょっと弱気な事を歌っているのも気になるのね。

サチモスってあっけらかんとしたイメージがあって
何でもこなしてしまいそうな有能感が漂ってたんだけど、
実は今の音楽シーンに対する葛藤の末に生み出した
苦難の作品がこのアルバムだったのかもしれない…


アーティストが売れた後に好きな事を始めるってのは、
昔からよくある事なのでサチモスもそのモードになったと
いう事なのかもしれないけど、俺はサチモスに関しては
なんとなくそういう計画性を感じていないんだよね。

純粋に、真面目に、今この瞬間に奏でるべき音楽は
これなんだという彼らなりの回答がこのアルバムなんだと思った。


タイトルである『THE ANYMAL』という言葉。
良く見ると「ANIMAL」(=動物)ではなく、ANYとMALなのである。
MALってのは「悪・不全・異常」 という意味だ。

だからこの造語であるタイトルには実は「あらゆる悪」という
怖い意味が込められているのかもしれないとか思うと、
サチモスの底知れない闇に触れたような気がしてくる。

 

このサチモスのアルバムが、
今年物議を醸した問題作である事は間違いない。
だがちゃんと聴いてみるととても奥深い作品でもある。

そしてこれを機にサチモスファンが
プログレとかに興味を持ったとしたらそれもまた面白い。


サチモスは一体何を思ってこんなアルバムを出したのか。

真意は分からないけれども、
でも俺はそんなサチモスも好きだ。

このアルバムは一筋縄ではいかない魅力が詰まった、
平成の終わりの力作である事実は間違いないだろう。


【採点】
・さすがに変わりすぎ 20点
・これはこれでアリ  50点
・実はプログレ苦手  -1点
・でもピンフロは好き 10点
79点