脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

ニルヴァーナの登場が生み出した90年代の壁はやっぱり厚いと感じた。

崩壊によって出来た壁。

 

先日サザンのアルバム『葡萄』が発売された際に、
音楽雑誌のインタビューで桑田佳祐氏が
「最近の音楽にいよいよついていけない」旨の話をしていたらしい。
ネットで読んだ内容ではあるが。

⇒サザンオールスターズ「アロエ」/なぜ桑田佳祐は自らを“ガラケー”に喩えたか


それは別にネガティブな感じでも昔を美化する趣旨でも何でもなく、
例えば「2014年のグラミー賞4冠のサム・スミスとかの”凄さ”なんかは
もう自分達じゃ追いつけないと思った」等の俯瞰的な視点での話だった。

そしてその話の中にあった、
「90年代のニルヴァーナとか以降は自分達のやってきたポップスが、
 今で言うガラケーみたいなものになっちゃった」
という節が気になったのだ。


俺らの世代より一回り以上昔にバンドやってた人の話を聴くと、
ちょくちょくこの”90年代の壁”というものに引っかかる。
音楽に少し詳しい人なら皆なんとなく分かるのではなかろうか。

日常では90年代以降の音楽にしか触れて来なかった俺の世代にとって、
それ以前の人たちとは完全なる感覚の違いがあるのだ。
これは個人的にも本当に色んなところで経験している。


ニルヴァーナ系のバンドがもたらした『80年代価値観の崩壊』は
まさに意識の変革だったんだな、と強く感じずにはいられない事象である。
それは時代の必然だったのかもしれない。

ベルリンの壁が89年に崩壊したかと思えば、
91年にニルヴァーナが『Smells Like Teen Spirit』でまた
新たな壁作っちゃったよ的な感じだ。

本当にこの壁分厚いんだと思う。
価値観の崩壊によって新たな壁を作っちゃったんだよ。
むしろ90年代を横切る見えない鉄のカーテンとでも形容すべきか。

実際これは冷戦の終結とも絡んでくるのではなかろうか。


80年代価値観とは、平たく言えば『華やかなロックスター』だ。
筋肉質な体型に長髪や革ジャン・ブーツのような目立つ格好や服装をして、
高い声域を駆使した美声でイケイケな曲を歌いながらも、
時には愛や平和を叫ぶのが「カッコイイ」とされていたわけだ。

今でもそのタイプの「カッコイイ」は確かに存在するんだろうけど、
当時はそれこそが唯一無二の「カッコイイ」の象徴だった。
なんかもうその手法こそが「カッコイイ」であり「ロック」なんだって。

でもその「カッコイイ」の定義はニルヴァーナの登場により変わってしまう。

普通の体型の普通の格好したカート・コヴァーンが惰性に塗れた曲を歌う。
それが次の世代の若者達の「カッコイイ」になってしまったのだ。

いや、なってしまったというよりむしろ時代がそれを求めていた。
変革が起きるべくして起きた、時代が新しいフェーズに入ったという事だ。

そもそも冷戦で優位に立っていたアメリカでは、
自分達の正しさを主張するコンテンツが大人気だったのだ。
スター・ウォーズなんかもその典型だろう。
ああいう帝国を共和国が倒すという構図はアメリカ人の好物だ。

80年代隆盛を極めた華々しいハードロックは、
「これぞアメリカだ!俺達スゲーだろ!」といった、
彼らお得意のマッチョに主張するという欲求が潜在的にあったのではないか。
それは別に意図したわけじゃなく、大国の余裕がそうさせたというか。


しかし90年代に入り若者はそれまでの業界が作り上げた
「これがロックスター」といった姿にどこかしら疑念を抱いており、
ニルヴァーナを「新しいロックスター」として迎え入れ、崇めた。

冷戦に勝った後に襲ってきた虚無感。
アメリカは勝った。でも本当に俺らの価値観はサイコーだったのか?
実は空虚な遊びに興じていただけではなかったか?

時代が変われば晴れると思っていた若者たちの気持ちは晴れない。
そうなれば新時代のロックスターに自分達の気持ちを任せたい。
それまでの典型的なロックスターはもう要らない。

こうしてそれまでの価値観は崩壊したのだ。
常識が覆った瞬間だ。どんな感じだったんだろう。

まさにロックの転換点となった時代だ。
それ以降しか知らない俺はよくもしこの時代にいたら
それがどんな衝撃だったのか一度味わいたいと思っている。


きっとニルヴァーナを恨んだ音楽業界従事者はいっぱいいただろう。
でもこれはクラシック界や絵画界なんかでも繰り返された凄く自然な流れで、
むしろ色んな価値観を生み出す契機だったとも言える。
何事にも新陳代謝が起こるのは必然なのだ。


カートの自殺でやや神格化されすぎとも思うニルヴァーナだが、
彼らの登場で80年代以前と90年代以降に「壁」が出来た事は間違いない。

それはもういくら強力なハンマーをもってしても揺らぐ事がない壁、
壁ドンで乙女の心は揺らいでも壁自体は揺らぎません。そういう事です。

勿論すぐに転換してついてきた軽い女達変化に対応した人達もいるだろうが、
やはり劇的な変化というのは隔たりを作ってしまうものなのだ。
俺が上の世代の人達と話をした時に感じる違いはやはりココにある。

これは音楽だけに留まらない、
90年代以前・以降の大きくそびえ立つ壁なのだ。

そしてこれからの世代だって大小関わらず変化は起きる。
「最近の音楽は分からん」みたいなおっさんになりたくなければ、
色々な転換期にしっかりと立会って流れを視る事が大事なのだ。

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