脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】My Hair is Bad / mothers [2017]


そして母になる。

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My Hair is Bad

曲名リスト
1. 復讐
2. 熱狂を終え
3. 運命
4. 関白宣言
5. いつか結婚しても
6. 元彼女として
7. 僕の事情
8. 噂
9. 燃える偉人たち
10. こっちみてきいて
11. 永遠の夏休み
12. 幻
13. シャトルに乗って

1. 告白
2. 接吻とフレンド
3. ドラマみたいだ
4. マイハッピーウェディング
5. アフターアワー
6. 革命はいつも
7. クリサンセマム
8. mendo_931
9. ディアウェンディ
10. 元彼氏として
11. ワーカーインザダークネス
12. 真赤
13. グッバイ・マイマリー
14. 最愛の果て
15. 悪い癖
16. 彼氏として
17. フロムナウオン
18. 最近のこと
19. 恋人ができたんだ
20. 卒業
21. 優しさの行方
22. 音楽家になりたくて
23. 戦争を知らない大人たち
24. 夏が過ぎてく

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やりやがった。

こいつらやりやがったよ。
まぁいつかやるんじゃないかと思ってましたよ俺。

前作の『woman's』のジャケットもなかなかにアレでしたけど、
まぁあの件は一種のデザインとしてスルー出来るレベルだったよね。


でも今度のジャケットはなんだ。コイツをスルーしろってか。
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ちょっと遠くから見ると花模様に見えるんだけど、
近寄ったが最後のトリックアート。
CDショップで買う場合は店員に渡すのに勇気がいる。ネット通販推奨。

これの何が凄いって前衛的なデザインだとか発想が面白いとかじゃなく、
「うわマイヘアってキモっ」と新規リスナーを遠ざけてしまうリスクと
「この写真いいなぐへへ」みたいなマイヘアリスナーとは程遠い
別のカテゴリーの人種を呼び寄せてしまうリスクの両方が存在する点だ。
マイヘアにとってのメリットがまるで浮かばない。そこが凄い。

でもこういうリスクをものともせず危険な橋渡っている人すげーっす。
椎木さんマジぱねーっす。てかこのジャケット椎木さんの発案だよね?

しかしそんな誰も止めなかったのが不思議なくらいの冒険心が功を奏し、
彼らのこの最新アルバムはオリコン2位の売上を記録。
そして来年武道館。マイヘアもすっかり人気バンドになったな…。


さてマイヘアの何がそんなに人気なのかって、
やっぱり椎木さんが紡ぎだすあの世界観なんだろう。
鬱屈でノスタルジックで、でも光が差すようで、でも病んでるようで。

そういや先日話したyonigeとちょっと雰囲気似てるなと思ってたら、
マイヘアとyonigeってリアルに仲良いみたいね。すげー納得したわ。

で、ジャケットに気を取られがちな今回のアルバムの話なんだけど
正直アルバムの前半を聴いていた時は「微妙かも」と思っていた。

アルバム1曲目の『復讐』は、
マイヘアらしい捻りとエッジが利きまくった失恋ソングで
「刺してやるから」なんて言っちゃう椎木クンにゾクゾクしちゃう曲。
あと2曲目の『熱狂を終え』も疾走感があってカッコイイ。

とまぁ最初の方の曲は良かったんだけどね、
でも次第に少女漫画みたいな凡庸な恋愛ソングが続き始めて
生後間もなく少女漫画恋愛アレルギーを発症していた俺にとっては
なかなかに苦痛なラインナップが連続していたわけですよ。



マイヘアの恋愛ソングも悪くはないんだけどさ…。



俺はどちらかというとマイヘアの魅力って恋愛ソングじゃなくて
人間の深部に肉薄して心を抉っていくような
あのメンタル破壊ソングだと思っている。ちょっとマゾになれる曲。
確かにどっちもあってのマイヘアなんだけどさ。

というわけで前半は恋愛ソング続きで
「マイヘアも結局はこの路線がメインか…」などと思っていた。


思っていたら。
6曲目『僕の事情』から様子が急変

椎木さん、いきなり単語をぶつぶつと語り始める。

家族 彼女 友達 全世界が総立ち
バニラ チョコ ストロベリー
マリア 君の微笑み

 
きた…!
これだよコレ!俺がマイヘアに求めているのはコレなんだよぉぉぉ!

訪れる不穏な空気。
そしてその不穏な空気を胸いっぱいに吸って次々と吐き出される音楽。
不安と焦り、そして世間、さらには自己すらも唾棄するような音楽。
これぞマイヘアの真骨頂。待ってましたよ椎木さん。

別に俺は人の不幸が好物ってわけじゃない。
あ、ごめん嘘ついた。大好物です。転落人生話とか美味しいよね。
みんなそうでしょ?正直に言いな?

でもマイヘアみたいな武道館でライブ出来る程のバンドでも
吐き出すべき苦悩の音楽があるって事でさ、
つまりはそういう音楽ってどんな人間にも訴えかけるものがあると思うの。


『永遠の夏休み』とか凄い。
あの何も成し遂げられないまま終わって欲しくない夏休みの感覚。
これってつまり涼宮ハルヒの「エンドレス・エイト」
やるねマイヘア。アニメファン向けのネタまで提供してくれている。

ラストの『シャトルに乗って』は圧巻だった。
ずっと続いていくようでいきなり途切れる物語。
壮大なストーリーを感じさせる曲だが終わり方が切ない。
アルバムが急に幕切れになったような印象を与えてくれる。


と、アルバムを通して聴く事でやっと全体像が分かったぞ。
このアルバムってタイトル通り「mother」、つまり「母の物語」なんだ。

アルバム前半は恋多き若い頃に色々な感情を持て余す「女の子」の曲達。
時には人とぶつかったり本気で恋をしたりして成長していく。
そしてアルバム中盤で大人になり結婚したら
今度は世間と自分との間に生じる色々な軋轢に頭を悩ませる。

そしてアルバムの後半でノスタルジーに浸ったり季節を感じたり
自分を見つめ直したり達観したり。そして「今」を肯定している。
「母」になったんだ。アルバムの冒頭であんなに無鉄砲だった少女が、
アルバムが進むにつれて母になっていったのだ。


なるほど、俺がアルバムの前半が退屈だった理由が分かった。
残りの人生を捧げたとしても絶対少女漫画脳にはなれそうにない俺は、
前半のまだ少女の頃の曲にハマる事が出来なかったのだ。
だから後半になるにつれて徐々にこのアルバムの良さが分かってきた。

そう考えると椎木さんのセンスってマジで半端ないよね。
少女の気持ちから母の気持ちまでを正確に捉えて表現しきっているのだ。
実はめっちゃ少女漫画読んで研究したとか。椎木キュンしゅごい…。


そんなわけで女性が聴けばきっと共感できるだろうし、
ついでに椎木キュンの事が大好きになってしまうであろうアルバムだ。

しかし今回のアルバムのテーマが女性だと思われる一方、
曲の一人称はいずれも「僕」なので
そこは女性だとなかなかうまく入り込めないという難点がある。

つまりはボクっ子だと最高にハマれるという事だ。

マイヘアってやっぱ凄いね。
ニッチなニーズも見逃さない。


【採点】
・やっちまったジャケット 40点
・壮大な母の物語     40点
・新規ファンにも対応    5点
エンドレスエイトはトラウマ
             -8点
77点