脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】LCD Soundsystem / American Dream [2017]


ブラック・アメリカン・ドリーム

アメリカン・ドリーム アメリカン・ドリーム
LCD サウンドシステム

曲名リスト
1. オー・ベイビー
2. アザー・ヴォイシズ
3. アイ・ユースト・トゥ
4. チェンジ・ユア・マインド
5. ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?
6. トゥナイト
7. コール・ザ・ポリス
8. アメリカン・ドリーム
9. エモーショナル・ヘアカット
10. ブラック・スクリーン
11. パルス・ヴァージョン・ワン <日本盤ボーナス・トラック>

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年の初めってのはやたらと
「今年ブレイクしそうな○○」みたいな話題が多い。

みんなトレンドに遅れるまいといち早く情報を入手して、
周りにそれとなく伝えておいて、そして実際に人気が出たら
「ほらやっぱり売れると思ってた」という自慢を繰り広げて
予知能力者になったような気分に浸りたいんだろう。

そんなにしてまで周りから
「すごい!さすが!先見の明があるね!」と
持て囃されたいですか?

はい、持て囃されたいです。
yonigeが新年早々早速auのCM曲やりだして
すぐに嫁に「ほらyonige来たじゃん」て言いました。
あとCHAIは癖になりそう。tetoは…来るかな??


そんな流行り廃りの激しい音楽業界。
ceroSuchmosの流れでシティポップが流行るのかと思いきや
意外とそうでもなさそうな感じ。一年経てばもう沈静化。
おまけに昨年はヒット曲らしいヒット曲もなし。
どうなるのか今年の邦楽シーン…?


そんなときは洋楽でも聴きましょうよ。
邦楽の情報マウンティング関ヶ原に疲れたら、
ちょっと距離を置いて洋楽聴いて俯瞰するのがおススメ。

というわけで年初だし昨年リリースされた洋楽の中でも
気になった作品を取り上げていこうという次第です。
個人的に年始って昨年の作品で聴き逃していたモノを
おさらいする事が結構多いのです。

となればまぁこのアルバム『American Dream』は外せない。
LCD Soundsystem7年振りの新作であり、
海外の色んなメディアからも軒並み高評価を得た一枚だ。

7年というととてつもなく長いブランクなのだが、
なんとこのアルバムで彼ら自身初の全米一位を獲得!
ブランクがあると言いつつも、
この7年間で様々なアーティストと関わってきた
ジェームズ・マーフィの経験の賜物なんだろうな。


このアルバムがここまで注目を集めたのは
俺はもうこの『American Dream』というタイトル、
それに尽きるんじゃないかと思っている。

このタイミングで「アメリカン・ドリーム」という
意味ありげなタイトルをつけるのは、
間違いなく現在のアメリカに漂っている
不穏な空気を表現したアルバムだと想像できるからだ。


トランプ大統領が誕生して以来、海外のアーティストは
世界は今後どういう方向へ向かっていくのかという不安を
自分の創作物に落とし込むという手法を結構やっている。

このスタイルは単なる流行りというわけではなく、
アートが歴史的に担ってきた役割でもあり使命でもある。
現状を打破するための喚起を行うのがアートの真髄だ。

そんな状況の中で発表された新作が
『American Dream』などというタイトルだったわけで、
当然ながら多くの人が注目するに決まっているのだ。


しかしそんなアルバムタイトルだけの作品ではなかった。
内容もとてもずっしりしている一枚だ。

別に暗いというわけじゃない。
オープニングからどちらかというと開けたような印象。
かつてのTalking Headsのようなカラフルさも感じる。

でも、従来のLCDからはあまり感じられなかった落ち着いた感じだ。
「あれ、LCDってこんなバンドだったっけ?」と思うくらいに
軽い感じではない重みを感じるアルバムだった。

俺はLCDはまともに『Sound Of Silver』くらいしか
聴いた事が無かったんだけど、
彼らの持ち味ってニューウェーブ、パンク系の音楽をベースに
ダンスサブルなデジロックを奏でるファンキーな印象があった。

だが今回の作品には『how do you sleep?』のような
彼ららしい曲も勿論あるけれど、
どちらかというと派手さよりも繊細さが際立った曲が多い。
クール。とってもクール。むしろ冷やかとも言えるかも。



それでもなかなかに面白い。デジタルで構成された完璧主義なようで
どこか人間的な遊びを感じるのがLCDの持ち味だと思っている。
そんなLCDらしさは今作でも間違いなく健在だった。

歌詞については意味深な言いまわしがありそうで、
TOEIC未採点の純日本人の俺には正直理解出来ないんだけど、
先行シングルの『Call The Police』や『American Dream』の
歌詞を見る限りではかなりブラックな感じ。
「俺らが夢見ていたアメリカは今こんなだぜ?」的な。


それはジャケットにも表れていると思われる。
スカッと青空が広がっているような背景なんだけど、
前面に表示されている文字は真っ黒。飾り気のない黒。

従来なら『AMERICAN DREAM』のフォントなんて
カラフルでキラキラした加工がされていそうなもんだけど、
敢えての真っ黒なのである。そしてこれが正解なのだろう。
彼らにとって「現在」のアメリカンドリームは
黒く塗りつぶすべき対象というわけである。


俺は最初このジャケットがそこまで好きでは無かったけど、
ずっとアルバムを聴いているうちに分かった気がする。
むしろこのジャケットこそが全てを物語っていたんだよ。

つまりLCDはやっぱりロックだったんだ。
よくあるバンドサウンドとは違うけど、
でもやっている事はアートでありロックだったんだ。

というわけでLCDの過去作品も早速Amazonでポチりました。
『Sound Of Silver』とか売っちゃったけど買い戻しだよ。
何故売ったんだ社会人一年目の俺。
もうこれで昔売ったCDを買い戻すの何回目だと思ってるんだ。
今年社会人一年目のみんな、CDだけは売るな。持っておけよ。


というわけでこれまでのファンキーなLCDとはまた違った
重さと黒さを見せつけたアルバムだったんだけど、
それでもこの作品は全米一位を獲得しているのである。

そしてこの事実こそが重要なんだろうと思うんよね。
こんなアルバム(悪い意味では無いよ!)が支持される。
それが現在のアメリカの状況ってわけですよ。
その事実まで含めてこの作品は近年で最も重要な
アルバムの一枚と言えるんじゃないかな。


70年代にアメリカのバンド、イーグルス
アメリカンドリームの終焉を歌ったアルバム
ホテル・カリフォルニア』を発売して
大ヒットを記録した事があったけど、
なんとなくそれと似たような話なのかもしれない。

いつの時代も誰かが「夢は過ぎた、目を覚ませ」と言っていた。
LCDはそんなメッセージを伝えるため復活したのかもしれない。
だとすればなんと熱い男なんだ、ジェームズ・マーフィ。

今、アメリカで求められている音楽が詰まっている一枚。
いや、アメリカだけではなく世界が求めていた一枚なのかも。
これを聴かずに2018年にはコマを進められないぞ。


【採点】
・復活のLCD       30点
・ブランクもなんのその  30点
・黒いアメリカンドリーム 20点
・絶対に売るな      -3点
77点