脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】宇多田ヒカル / 初恋 [2018]


セカンド・ファースト・ラブ。

初恋 初恋
宇多田ヒカル

曲名リスト
1. Play A Love Song
2. あなた
3. 初恋
4. 誓い
5. Forevermore
6. Too Proud featuring Jevon
7. Good Night
8. パクチーの唄
9. 残り香
10. 大空で抱きしめて
11. 夕凪
12. 嫉妬されるべき人生

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発売からかなり間が開いてしまったけど、
今年の話題作として取り上げないわけにはいかないでしょうコレ。

宇多田ヒカルの最新アルバム、その名も『初恋』だ。

早いっすねー。まだ前作『Fantôme』から2年だよ。
みんな思わなかった?ちょっとヒッキー飛ばしてない?


そしてこの『初恋』というタイトル。これもみんなが思っただろう。
宇多田のデビュー作にして日本で一番売れたアルバム『First Love』。
あれから20年近い時を経て再び放たれる「初恋」タイトルってわけだ。

ここで一瞬aikoの「初恋」がよぎったのは俺だけでいい。

aikoいいな~。aikoみたいな姉ちゃんがいたら最高だよな~。


さて、今回も前作の『Fantôme』に近い路線で全体的にも日本語が多め。
『First Love』の頃から比べるとより”日本的”になったという事で
20年の時を経て英語ではなく日本語での「初恋」となったようです。

良かった良かった。日本語でもいい事をわざわざ横文字にしたがる
イキり会社員が多い世の中で、宇多田のような超ビッグアーティストが
こうやって皆の意識改革を促すタイトルにしてくれて良かった。
皆で宇多田のハレーションでコレクトなリテラシーにキャッチアップしろ。


で、その『初恋』なんですが。
アルバム全体の雰囲気として『Fantôme』の地続きのような印象で、
悪くはないんですが…素直な感想は「重い」なぁって感じっす。

それはきっと今作がより「音」よりも「言葉」を強く感じるからだろう。



この『あなた』もそうだが今回はかなり歌詞に偏重気味である。
アルバムタイトルから日本語を意識したのは間違いないんだろうけどね。

「ノリ」よりも「歌」重視。まー前作からその予兆はあったかな。
ノリも無いわけじゃないが静かなノリ。ほらアレだよアレ。
音楽好きで横文字好きが言いがちな「グルーヴ感」って奴。


現在話題沸騰中のタイトルトラック『初恋』もそんな感じです。



この曲も重いけど、それに加えて魔力のような凄みがある。
かつての『First Love』の頃から時を経て母となった今、
宇多田の『初恋』には「母み」を感じる事が出来るのだ。

勿論ここでいう「初恋」は男女の恋のようにも捉えられるけど、
母と子の関係にも思える節もある。

母の藤圭子を亡くした宇多田が子どもとして親を見る視線。
そして母の立場になった宇多田が親として子どもを見る視線。
そんな気持ちを新たな芽生えた感情という意味で「初恋」と表現する。
なんとなくそんな含みも込められた曲のような気もしてくるのだ。


そしてキングダムハーツ3の曲『誓い』も収録。


歌詞に出てくる「誓い日和」という言い回し、好きです。

しかしこの曲って結婚をテーマにした曲だとは思うんだけど、
曲の雰囲気は世間的な結婚式ソングとは真反対の暗さなのがポイント。


そう、今回のアルバムは『初恋』という
恋を題材にしたアルバムなんだけど全体的にポップ感が薄いのだ。
恋というキャッキャウフフなワードがテーマにも関わらず重く、暗い。

誤解を恐れずに言えば、なんというかグロテスクなのだ。
宇多田がこの『初恋』で描いた恋はキャッキャウフフなんてしてない。
恋にはちょっとしたグロテスクな側面があるということを感じられる。

『Forevermore』の

愛してる、愛してる それ以外は余談の域よ

なんてちょっと怖さすら感じる。
これを10代の宇多田ではなく30代の宇多田が歌うのがまた凄いの。
とてつもない気迫を感じるわけ。

そんな人間の恋という現象を生々しく表現した今作『初恋』。
『First Love』から20年、もう一度「恋」について
今の宇多田ヒカルの感覚で再度取り組んだ内容なんだと思う。


しかしだなぁ、『パクチーの唄』はちょっと問題ですなぁ~。
『ぼくはくま』みたいなおどけたタイプの曲なんだけど、
この曲でアルバムの一貫性が損なわれてしまっているの。

パクチー ぱくぱく
パクチー ぱくぱく
パクチー ぱくぱく
パクチー ぱくぱく


おいなんだこの曲。
やめてくれ。

昔お昼に入った食堂に「パクパク焼きそば」というメニューがあって
凄い気になったんで「パクパク焼きそば下さい」と伝えたら、
パリパリ焼きそばですね」と正された過去を思い出すからやめてくれ。
手書きメニューの字が読みにくかったんだよ。俺は悪くない。

そんな個人的な思い出も重なり、
この曲のクセが強すぎるせいでアルバム全体の雰囲気が乱れてしまった。


まぁパクチーという異物感は置いておくにしてもだ、
今回のアルバムは正直俺はそこまで好きにはなれなかったんですよ。
嫌いでも無いがやっぱり「歌」に寄り過ぎている感じがどうもね…。

宇多田ヒカルってその独自の歌詞の世界観を持ち合わせながらも
あのメロディ、リズムにうまくはめ込んで(時には英語も駆使して)
まさに「宇多田ヒカル」の音楽にしていたんだよ。

そして宇多田の作品には洋楽の音感覚を輸入して
日本人向けに提示してくれるような役割もあったんだ。
今作では『Too Proud』が最近のトラップミュージックっぽくて
きっとそういうポジションなんだろうけど。


しかし全体的に今回は言いたい事を伝えたいあまりに、
その肝心な宇多田らしさに欠けている曲が多かった。
初期の宇多田ヒカルが好きな人ほど特にそう思うんじゃないかなー。

前作『Fantôme』は久々の復帰作って事もあって、
その期待度からもやっぱり良いアルバムだと思えたんだが…
やっぱスパンが短すぎた?気持ちが走るままに作ったんだろうけどね。


あとジャケットが例によって今回も顔写真です。

しかもなかなかにアップな一枚。
『First Love』がかなりドアップなジャケットだっただけに、
やはりそこを意識しての写真なのか。

というわけでちょっとオリジナルアルバムのジャケットを
1stアルバムから海外発表盤も含めて並べてみました。

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宇多田の顔の変遷が分かりますね。まさに校長室。
そしてやっぱり今作『初恋』が『First Love』に次いで
2番目のどアップ具合でした。『ULTRA BLUE』もいい勝負だけど。

しかしもうここまできたら今後も顔写真路線から脱線はできまい。


そんなわけで宇多田ヒカルの『初恋』、
個人的にはやや物足りなかったなってとこです。

そしてやっぱり重かった…。多分俺は宇多田ヒカルに無意識的に
「楽しさ」そして「癒し」を求めていたんだろうと思います。
初期の宇多田の頃から宇多田の曲と共に生きてきた世代だし、
昔とは違うと納得しつつも、どうしてもそこを期待してしまうんだよね。

という事でどうせなら次はパクチー路線で
一枚アルバムつくってくれたりしないかなーとか思った。
それはそれで結構凄い作品になりそうだと思うけど、どうかな?


【採点】
・メッセージ重視作品  30点
・20年ぶりの初恋    20点
・相変わらずの顔写真  20点
・焼きそばパクパク    1点
71点