脱R論

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「この世界の片隅に」はこの上なく未来を描いた戦争映画だ!


世界の片隅で終わらせたくない。

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック
この世界の片隅に』製作委員会
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観た。観たよ。良かった。
会社を休んでまで観に行った甲斐があった。


もうね、この映画については皆が言及しすぎてて
俺が書く程の事は無いと思ったんだけどやっぱ書きたい。
それくらいの衝動に駆られる作品だったんだよ。

2016年の映画の満足度ランキングでは、
強敵揃いだった昨年の作品の中でなんと見事第一位に輝いた映画だ。
映画雑誌「キネマ旬報」でも年間一位を獲得。
プロモーションが弱く配給先も少ない映画なのに、
その評判は口コミ・SNSを通して今も尚じわじわと広がっている。
 

この映画を端的に言い表すならば、
「今までには無い全く新しい戦争映画 」といったところ。
監督は片渕須直氏。名前は知らなかったんだが、
調べたらBLACK LAGOONのアニメ監督じゃねーか。ちょっとビックリ。
ちなみに原作は漫画であり、作者はこうの史代さんだ。

この作品は映画評論家等からも軒並み高評価を得ており、
あの映画好きでお馴染みのライムスター宇多丸が、
5000億点とかいう小学生みたいな意味不明の高得点をつけていた。

そんな皆のスカウターがぶっ壊れる程の話題の作品。
俺も早く観たかったんだけど如何せん配給先が少ないせいで、
我が県で公開されたのは昨年の年末になってからだった。待ったよー。

公開が始まったのは俺の住む町から車で40分程度の場所。
小さいシネマだったとは言え、行くと席はほぼ満席状態だった。 
みんな評判を聞きつけて集まったんだろう。


終わって欲しくない映画。


観た。とても良い映画であり、そして不思議な映画だった。
上映時間は2時間を超え、アニメ映画としてはかなりの長丁場だったけど
その長さを全く感じさせなかったのだ。
 
確かに戦争映画だ。戦争映画なのに俺はもっと続いて欲しいと思った。
もっと先が見たい。エンドロールなんか観たくない。 
連続ドラマやアニメが最終回を迎えた時のように、
映画が終わったときはとても寂しかった。もっとこの世界にいたかった。

帰りの車で俺はめっちゃぼんやりして余韻に浸りながら運転していた。
今考えると危なかったな。あと保育園に娘を迎えに行くのが遅れた。
すみませんでした。お父さん有給休暇エンジョイしてました。


以下、若干のネタバレが含まれるので
完全にホワイトな状態で映画を鑑賞されたい方は
頑張って良い感じに飛ばし読みして下さいな。




これまで描かれてこなかった戦争があった。


何がそんなに「新しい戦争映画」なのか。
今までも広島はさんざん戦争映画の題材になってきたわけだが、
この映画はそもそも描いているピントが違う。

敢えて誤解を恐れずに言えば、
この映画は一人の人間にスポットを当てた「日常系アニメ映画」だ。
ただ描かれている時代が戦時中であり舞台が広島の呉というだけ。
そこで起きていた人々の日常を描いたアニメ作品だ。

だからこの作品が描いているのは単純な日本とアメリカの争いではない。 
日常と、生活と、自らの人生と戦っている人々の姿だ。
そしてその日常の描き方が実に緻密で本当に活き活きとしていた。

ここまで日常に向き合って描く事を貫いた事によって、
背景に戦争をドカンと置いてその大きな文脈に沿って描かれがちだった
これまでの戦争モノとは一線を画しているし、
結果的にそういった表現へのアンチテーゼともなっているのだ。


特に印象的だったのは、
港に停泊中の軍艦のスケッチをしていた主人公のすずが
憲兵に敵国のスパイだと疑われて、すずの家族が咎められるシーンだ。

俺の今までの感覚では、この後の展開は
「戦争のせいで自由に絵も書けない…表現する事すら許されない…」
と皆が嘆くシーンが続くものだと思っていた。

しかしこの映画は違った。
憲兵がすずの家を去った後、すず以外の家族が大笑いを始めたのだ。
あの大人しいすずがスパイてwww憲兵アホスwww」てな感じに。

俺は唖然となった。
戦時中というと笑う事すら出来ない暗い日々を送っていたイメージだった。
それがこんなにも楽しげに描かれているなんてかなり衝撃的だった。


しかし、それでも作中ではしっかりと戦争の足音が近づいてきている。
食料の配給も少なくなり徐々に苦しくなる生活もリアルに描いているし、
何よりこの手の歴史を扱った映画ならどれでもそうだが 
いずれ原爆が落とされる事が分かっているので、
鑑賞者の脳裏にはその日までのカウントダウンが自然と鳴り響いている。

だからこの映画には二つの戦争が描かれている。
太平洋戦争、そして一人の女性が自分の生活を守り抜いていく戦争。
マクロな戦争とミクロな戦争、その両方を描いた戦争映画というわけだ。


映画を支えた色々な要素。


ちなみにこの映画は、
徹底した取材を元にして当時の様子を忠実に表現しているという
リアリティも一つの売りだったわけだが、なぜアニメ作品だったのか。

実は過去には同作品の実写版ドラマ化もされており、
そちらの方がリアリティ自体は高そうなのだが
状況としてはこのアニメ映画でここまで絶賛されている。


一つはこの映画のキーワードが「」であることだ。
主人公の「すず」さんは絵が好きな女性だ。
だから映画の中には彼女の絵と現実が混じる描写が出てくる。

しかし、作中ですずさんは右手を失ってしまい絵が描けなくなる。
そしてそれ以降は近づいてくる戦争の足音などと共に、
彼女自身が凄く落ち込んでいく場面も多くなる。

しかしそれでも彼女は生きるために
自分が出来る事を必死に考えて日常を取り戻そうとしているのだ。

つまり、この「絵を描く事が出来なくなっても生きる」という事を
マンガ、アニメという「」を通して描く事によって
とっても大きなメッセージ性が生まれているというわけだ。
「ここで絵が描けなくっても生きていくんだ」という
ある意味で作り手の意思表示のような効果がすずさんに現れている。 

また主人公すずを演じたのん(能年玲奈ちゃん)の声も素晴らしい。
のんびりおっとりした調子で、でもどこか芯が感じられる声。
こんなにハマっていると感じた配役は久々だったよ。


そして音楽。 音楽を担当したのはコトリンゴさんだ。

しかしこの映画を観てて思ったのはBGMが少ないという事。
映画を演出するにはBGMは不可欠な要素と思われるが、
この作品では本当に肝心なシーン以外では
殆どBGMは流れていないか静かに鳴っている程度だった。

しかし少し考えてみたらそれで問題ない事に気付く。
日常を描き切るという事に的を絞って制作していれば、
敢えて不必要にドラマティックさを演出する必要性などないわけだ。
だから音楽も多用せずに適切な場面で効果的に使用されている。

そしてオープニング曲は、邦楽の夜明けの時代に活躍したグループ
フォーククルセイダーズの「悲しくてやりきれない」のカバーだ。

コトリンゴさんの柔らかい歌声のお陰で、
原曲と比べると牧歌的な雰囲気となって作品のタッチと良く合っている。

原曲もいいけどね。特に加藤和彦はやっぱり偉大だなぁと思う。


しかしこの映画、
このOPのように「悲しくてやりきれない」では終わらないのが良いんだよ。

この作品で描かれているのは、
どんな状況になっても必死に日常を生きようと奮闘する人々の姿であり、
右手を失って絵が描けなくなっても強く生きていこうとするすずの姿だ。

これは現代にも通ずる考え方だね。
どんなに先が見てなくても生きていこう。 戦時中だろうが現代だろうが、
我々が生きる日常はずっと昔から繋がっているのだと感じさせてくれる。
悲しくてやりきれない、けどみんな未来を見て生きているのだ。


戦争を過去にしてくれた。


この映画は本当にいい意味で戦争を過去にした作品だったと思う。

勿論、戦争は無かったことには出来ないししてはいけない。
でも未来を向いていくためには過去にしていかねばならない部分もある。

ここからは完全に俺の感覚だし作品の意図とは離れるかもしれないが、
戦争モノの作品について俺がいつもモヤモヤしていた部分を、
この映画はうまく晴らしてくれたし語ってくれたと思ってるんよ。


例えば戦国時代の兵隊が槍を構えているコスプレ衣装なんかは
きっと多くの人がカッコイイと素直に感じるのだろうけど、
これが太平洋戦争中の日本兵が銃を構えているコスプレになると、
俺も含めてなんだかちょっと違う気分になる人は結構多いと思う。

戦国時代と昭和時代、同じような人間同士の争いを題材にした衣装なのに
何故かそこには無意識的に違いが生まれてしまっている気がする。
もっと若い世代はもしかしたらそうでもないのかもしれないけど。

それは戦闘の規模や民間人が多数巻き込まれた等の差もあるだろうけど、
多分、大きな理由として先の大戦をリアルタイムで経験した世代や
戦争のせいで今も尚苦しんでいる人達がいる限りは、
なんかこう戦争という素材をほんわか描くという表現が
気分的にやりづらい、そんな空気があるんじゃないかと思うのよ。

でも、この空気はいつまで続いていくのだろうかと思ったりもしていた。
我々が今の時代に戦国時代の話を見るような感覚で、
あの大戦中の話を見れるような時代がいつか来るんだろうか、と。


でも俺は、この映画からそんな兆しを垣間見たのだ。

戦時中の話でも表現の仕方によってこんなにもタッチが変わってくる。
そりゃ当然戦争は悲しいし原爆は忘れてはいけない出来事だ。
でもそれだけじゃない。残すべき話は悲しさや憎しみばかりでは無い筈だ。
そういった意味でもこの映画は新たな時代を切り開いてくれた作品なのだ。


「笑いあり涙ありのエンターテイメント!」なんて良く耳にするけど、
まさか戦争映画でそんな言葉が相応しい作品に出会えるとは思わなかった。

実際に俺が観た映画館でも、
笑いも何回も起こったし、グスンと鼻をすする音も何回も聞こえた。
もし祖父母が生きてたら一緒に観たかったな。一緒に笑って泣きたかった。
その代わりいつか絶対に娘には見せたいと思う。一緒に笑って泣きたい。


映画は次のステージに行くのかも。


2016年は映画が非常に熱かった年だった。

大ヒットした「シン・ゴジラ」に「君の名は。」どちらも良い映画だった。 


ちなみにこのブログでは以前「君の名は。」は観てないって言ったけど、
あの後なんだかんだで結局観た。映画館にリア充が意外といなくて安心した。


良かったよ。特に奥寺先輩がカッコ良くて好き。奥寺先輩のテーマいいね。 


そして今回の映画「この世界の片隅に」。

これらに共通して俺が感じたのは、
「シナリオ・ストーリーだけじゃなく見せ方・演出も大事になっている」
という点。驚くような展開だけでは映画のヒットには不十分な時代なのだ。
君の名は。」はストーリーだろ!という方もいるかもしれないが、
俺はあの作品もどちらかというと見せ方が大きいと思った。

でもこの傾向は個人的には結構歓迎だ。
ストーリーも大事だが、それ以外の部分でも人気が出るようになると、
作品の面白さの受容が広がって、色んな作品が台頭してくる下地になる。
今後も衝撃的な作品が日本から生まれる事を期待してるぜ。


あと、個人的には英国のバンドOasisのドキュメンタリー映画も観たいな。
でもあれこそ上映館数が少ないのよ。俺の県に来る気配はまるで無い。
でも他県に観に行く程の行動力も無い、まるでマイルドヤンキーな俺…。


改めて、「この世界の片隅に」を観て欲しい。


色々言ったけど、とにかく本当に素晴らしい映画だった。
この映画はクラウドファンディングで資金が集まって企画されたそうだ。
今の時代だからこそこの方法で実現にまで漕ぎつける事が出来たと思うと、
出資者の皆様と時代にただただ感謝するばかりだ。


しかし声優を務めたのが芸能事務所から圧力を受けたのんだからか、
これだけ映画が話題になっても全然メディアで報道される気配が無い。
俺はこの映画の存在をNHKの朝のニュースで知ったんだけど、
あれはやっぱり芸能関連のしがらみが薄いNHKだったからなのかな?

普段は差別反対だのイジメカッコ悪いだの囃し立てるメディアがこれじゃあ
良い作品も埋もれてしまうね。結局は内輪に優しいメディアの悲しき性よ。

でものんも素敵な作品で主演を演じられて良かったんじゃないか。
あとのんって名前、テキスト内だと埋もれてめっちゃ見にくいんだけど。
のんちゃんだとフット岩尾になるし。なんかいいアイディアないかな。


改めて、本当の本当に良い映画だった。
年の締めくくりにこの映画を観れて良かったと思う。

しかしこんな良い映画が上映数が少ないまま終わるのは勿体ない。
もっと配給先を増やすべきだ。これは世界の片隅で終わらせてはいけない。
それだけの理由がこの映画にはある。 

ここまで読んで興味を持ったなら、さぁ次は貴方が会社の有給を取る番だ。
是非観てくれ。きっと笑えるしきっと泣ける。

そして感じてくれ。新しい時代の、未来の戦争映画を。


劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック 劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック
コトリンゴ

曲名リスト
1. 神の御子は今宵しも
2. 悲しくてやりきれない
3. 引き潮の海を歩く子供たち
4. すいかの思い出
5. 周作さん
6. うちらどこかで
7. 朝のお仕事
8. 隣組
9. すずさんと晴美さん
10. 広島の街
11. 戦艦大和
12. ごはんの支度
13. 径子
14. 疑い
15. ありこさん
16. ヤミ市
17. りんさん
18. デート
19. 大丈夫かのう
20. お見送り
21. あの道
22. 良かった
23. 左手で描く世界
24. 白いサギを追って
25. 広島から来たんかね
26. 飛び去る正義
27. 明日も明後日も
28. すずさんの右手
29. 最後の務め
30. みぎてのうた
31. たんぽぽ
32. すずさん
33. New day

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