脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

映画ボヘミアン・ラプソディを絶賛するわけでもなく程々に語る


Queen Will Rock You.


すっげー話題のこの映画。
すっげー話題だから俺も観に行った。

クイーン(というかフレディ・マーキュリー)の伝記的映画、
『ボヘミアン・ラプソディ』。公開されるや否や世界中で大ヒット。
日本列島も「めちゃ感動した!」の絶賛のコメントで溢れかえっており、
平成の最後にまさかのクイーンブームが再来するという事態だ。


いやー、俺も実は当初はあんまり観る気無かったのよ。
個人的にクイーンってまぁまぁ好きではあるんだけど、
イギリスのバンドにはもっと好きなバンドが多くいるし
そこまで食指が動かなかったというか。

でもここまでヒットするだなんてもう観るしかないじゃん。
は?周りに流されるなって?うるせーよ。
俺は別に周りに流されてない。流れに乗ってるんだよ。分かる?

でも実際に音楽のドキュメンタリー的映画がここまでヒットするのは
とても珍しい事である。タイミングがもう少し早ければ、
流行語大賞にノミネートされていたかもしれない勢いだ。




というわけで人に流されやすいミーハーな俺も観てきました。
俺が行った時の観客はほぼ年配の方々。日本の高齢化を感じる年の瀬。
でも考えてみればクイーン直撃世代っつーたら50代とかだしな…。


なるほど、これは確かに人気が出るのも分かる。
クイーンを良く知らない人でも十分に楽しめる映画だ。
ちゃんとそういう仕組みになっているしエンタメとして完成度が高い。

…ただ、なんだろう。俺はもう1回観れば十分かな、と思ってしまった。

多分ハードルが上り過ぎていたんだと思う。

ネットでは複数回観るのがデフォくらいの評判だし、
この前NHKのアナウンサーも「3回観た」とか言ってたし、
ウチの部長すらも「3回観るべき」とか推してたし、
そういう声が俺の中のこの映画に対する期待値を過剰に上げていた。

でも正直な感想、「そこまでかぁ?」という気持ちだった。
今年の流行語にもなった映画『カメラを止めるな!』もそうだった。
アレも観たけど事前に期待値が上がり過ぎてて、
「うーん…」みたいな感想だった。期待値上げすぎ危険。注意。


というわけで、俺がまだ観てない人のために期待値をやや下げしつつ
かつ楽しめるように簡単に映画の内容と見所を紹介したい。
少しネタバレもあるので完全にクリーンな状態で観たい人はスルーで。



紹介したいとは言いつつ、
もう予告動画観てくれたらそれでもいい気もするけど。


さて、この映画は正確にはドキュメンタリーでは無く、
クイーンの実話をベースにしたドラマと呼んだ方が近いかもしれん。

既に多くの人が指摘しているように、
クイーンの史実と異なる点が映画には散見される。
この点についてはもっと詳しい方がネット上で色々解説してくれてる。

ただ歴史に忠実ではなくてもエンタメとして楽しめれば良いと思うし
あんまり細かく重箱の隅をつつくのもダセェし気にはしない。
まぁコレを事実として認識されるとちょっと変な感じではあるけど。


この映画のクライマックスはラストの「ライヴエイド」での
クイーンの圧倒的なライブパフォーマンスシーンであり、
物語はその最高のクライマックスに向けて展開していく。

クイーンというバンドがスターダムにのし上がり、
その後メンバー間の不和やフレディの葛藤等を経験し、
様々な苦難を経てからライブエイドのステージで復活するという
少年漫画のような熱い王道ストーリーがグッとくる。


最大の見せ場である「ライヴエイド」は、
俺が生まれた年でもある1985年に「飢餓を救う」目的で開催された
世界最大規模のチャリティーコンサートである。

超豪華なアーティストが多数出演したコンサートで
劇中ではクイーンくらいにしか触れられていないけど、
当時は実際にはクイーンはさほど目玉扱いな位置でも無かった。

むしろ1985年と言えばパンク・ニューウェーブ時代も経て
新しいアーティストが次々と台頭してきた時期でもあり、
クイーンのような70年代に活躍したバンドは過去のバンドだった。

だからクイーンは当初はそこまで注目されていなかったし
ザ・フーの再結成とかの方が話題だったんじゃないかと思う。
あとレッド・ツェッペリンの再結成(もどき)とか。


だがそんな状況で見せたクイーンのパフォーマンスは圧巻の一言。



あのエルトン・ジョンも悔しがった程の盛り上がりを見せ、
ライブエイドのベストアクトとして最大級の賞賛を浴びたのだ。

だからこのライブエイドは、
当時人気も下降してバンド自体も危機的状況だったクイーンが
その存在を再び世界に知らしめた重要なライブだった事は間違いない。
映画のクライマックスシーンとしても持ってこいの題材である。


それとこの映画、俺が聞いていた公開前の情報では
確かファミリー向けで誰でも楽しめる内容にするという事で、
フレディのエイズの話や同性愛のシーン等は抑えられるといった
そんな話を聞いていた気がしたんだけど実際は結構入ってきてた

特にエイズの描写についてはかなりがっつりで、
フレディがエイズを患っているのをメンバーに告白し
そこから感動のラストのライブシーンへと繋がっていくので
エイズの要素は物語を構成する上では非常に重要とも言える。

実はここも史実とは異なる部分で、
フレディがエイズを告白したのはライブエイドの後の話。
だが映画として最後のライブエイドのシーンを盛り上げるために
その辺りの時系列はドラマチックになるように調整してあるみたいだ。

あとエイズについても最近は研究が進んでおり、
以前とは違って薬を飲み続ければ死には至らない慢性疾患になっている。
フレディはエイズに罹り亡くなってしまったわけだが、
その点についてもこの映画の当時の感覚と現代で異なる点だ。


さて、このフレディのエイズが発覚する辺りから
映画のムードはエンタメからシリアスな雰囲気になるんだけど、
ふと俺は黒澤明監督の名作映画『生きる』の事を思い出した。

市役所で黙々と無気力に仕事を続ける主人公が、
癌で余命を宣告された事をきっかけに「何かを世の中に残す」事に
奔走するヒューマンドラマ。ゴンドラの唄のシーンは超泣ける。

人はいざ「死」に直面したときに、
自分には一体何が出来るのかを真剣に考えるのだろうと思う。
ただ世の大多数の人は生き続けるので死を実感として意識出来ない。

フレディがエイズを認識した上でライブに臨むその背中からは
「死ぬ前に自分が世の中に残すもの」への強い意識が感じられた。
だから特にこれを観た年配の方々には是非とも奮起して貰いたい。
この映画は日本の高齢者の再活用にも繋がる内容だと勝手に考えている。



こんな感じでなかなかにアツイ映画だったとは思うけど、
じゃあ俺は何に対して不満があったのかというと…
一つは映画としてストーリーが王道過ぎるのでベタ感があった事。
そしてもう一つは音楽的背景があまり描かれなかった事。多分この辺り。

まぁ一応伝記モノというテイストなので、
ストーリーが王道になるのは仕方ないし自然な事なんだろうけど、
それ故に「映画」として観てしまうと展開が普通と言えば普通なのだ。

だが逆にラストのライブ映像を楽しむ「音楽」として観れば、
凄く良くできた映画なんだろうなとは思った。
つまりは俺の視点がアカンかった。音楽鑑賞として楽しめば良かった。


しかし「音楽」に対する掘り下げもちょっと欲しかった。
他のアーティストの名前や曲も少し出てくるけど、
実際の人物が出てきてクイーンの面々と絡む事は無い。
(起用できるキャストの問題もあるだろうけど)

物語はあくまでクイーンの関係者内のみで完結している。
もうちょっと当時の流行の音楽とか時代性を描いて
音楽的背景を感じさせるネタがあったら面白かったのにと思う。

しかしそこまで音楽を聴かない人からすれば
クイーン以外の音楽要素が沢山登場しても別に面白くないだろうし、
これくらいに軸を絞った方が分かりやすいんだろうな。
つまりはコレも俺の視点がアカンかった。音楽好きは面倒くさいの。

でもラストのライブエイドのシーンはまだ盛り上げられたハズ。
劇中で扱ったからなのか『We Will Rock You』は抜けてるし、
逆に作中で大して触れなかった『RADIO GA GA』とかは流れるし。

映画を通して色んな曲を聴かせたいという意図もあるんだろうけど、
もっとライブエイドで使用される曲にしっかりフォーカスを当てて
それを中心に話を展開したらラストのカタルシスはやばかったと思う。


そういった点が個人的に気にはなったものの、
それでも最後ライブエイドでステージに立つシーンは
やっぱりウルっと来たし全然悪くは無い映画だった。

でも複数回観に行くまでは…無いかな。
多分クイーンが好きな人とかはハマるんだろうなー。


ただ、この映画では伝説的に扱われているクイーンだけど
現役当時は”トリッキーなバンド”みたいな印象が強くて、
実際に評論家達にもそこまで好評なバンドでは無かったのだ。

日本でも最初は女性から人気を集めていったそうで、
ヴィジュアル面とかの話題性でクローズアップされる事が多く
真正面から評価されたバンドだったとは言い難かった。

だからこそ、今回この『ボヘミアン・ラプソディ』が
伝記モノ映画にもかかわらず異例の大ヒットという事で、
クイーンそしてフレディに対する空気が塗り替えられているようだ。

そう考えると映画『ボヘミアン・ラプソディ』は
クイーンを再評価するという点でも非常に大きな役割を果たしている。


今になって意外な形で再び世界的な支持を集めるクイーン。
まさか俺も映画がここまで大ヒットするなんて思っていなかったよ。

個人的には色々とツッコミたい部分もあるけれど、
クイーンを知らない人にもリーチする音楽映画として
十分楽しめる内容になっていると思います。

映画を観るときは、是非ともライブに行くようなモチベーションで!