脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

シン・ゴジラに日本の破壊と創造を見た

アメリカよ、これが映画だ。
シン・ゴジラ音楽集
鷺巣詩郎
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観たよ。シン・ゴジラ
そりゃあんだけ話題になってたら気になるだろ?
俺ミーハーだもん。いいじゃんミーハー。ミーハー最高。


先に言おう。マジで良かった。

コレは日本人なら是非観て欲しい。
面白いし、迫力もあるし、何より本当に良い映画。
素直に「日本頑張れ」と心から応援したくなる、そんな映画だった。


もう事前に色んなネットニュースとかに
ネタバレとかネットバトルとかが大量に流れ込んできてて、
市川実日子演じる尾頭ヒロミがいいキャラだとか
石原さとみの英語がちょっと変だとか庵野だからエヴァっぽいとか
なんか前情報が入っちゃっていたけどそんな事は別に構わなかった。

徹底したリアリティの追求とゴジラを災害として描く一貫性。
ゴジラが現実に日本に現れたら本当にこうなるんじゃないかという、
何故か確信にも近い感覚が得られるシナリオ。圧倒的だった。

単なる映像のリアリティだけでは終わらない、
政治的なドラマ、自衛隊を中心とする各作戦の緻密な描写、
そしてセリフ一つ一つ、どれをとってもリアルを感じる。

そしてそのリアリティがどれも極めて日本的なのだ。ここが凄かった。
このリアリティこそがこの映画の最大のエンタメ性とも言えよう。
庵野にやられたとしか言いようがない。こんな映画を作ってたんだよ。
そりゃエヴァの制作が遅れててももう暫くは文句言わない

「スクラップ&ビルド」を目撃せよ

個人的に映画の中で非常に印象的だったセリフは
この国はスクラップ&ビルドで成り立ってきた。」だ。
スクラップ&ビルド。芥川賞を受賞した羽田圭介のタイトルもこれだ。
破壊と創造。再構築。俺も好きな言葉である。

この「スクラップ&ビルド」という言葉は
本来は物理的にビルなどを壊して再生する際に使われるものだが、
さらに広い意味で捉えると実に色々な事に当て嵌められる言葉だ。

特に芸術や文化の歴史は常に破壊と創造の繰り返しである。
既存のフォーマットのコピーばかりでは新しいものは生まれない。
偉大な先人達は皆抗って戦って時代を塗り替えてきたわけだ。

また人々の価値観もそうだ。世代間で考え方が合わないように、
価値観というものは時代と共に常に更新されて続けている。
新しいオピニオンリーダーが新時代の価値観を提唱し、
それに賛同した人間が自らをアップデートさせていくのだ。

「この国はスクラップ&ビルドで成り立ってきた。」というセリフ。
これはこの映画の一場面で使われた限定的なセリフではなく、
もっと大きな意味を込めて使われたセリフなんじゃないかな。

怪獣なんて存在しない映画

例えばこの「シン・ゴジラ」という映画自体もそうだろう。
この映画には特撮には付き物の「怪獣」という単語が一切出てこない。
登場人物は皆ゴジラを「未確認生物」と扱っている。
「神の生き物」なんて表現もあったが「怪獣」という言い方は無かった。

…いや、もしかしたら出てきてたかもしれん。聞き逃してたらごめん
でも俺が観ていた限りは出てこなかった。この映画の中の日本は、
ゴジラはおろか怪獣という表現そのものが存在しない時代を進んでいた。

だからこれは特撮だがいわゆる「怪獣映画」ではないのだ。
怪獣達の熱いバトルを期待した子供には満足感が感じられないだろう。
でもそもそもこの映画はそういったコンセプトではない。
その点ではこの映画は既存の怪獣映画の概念をぶっ壊したとも言える。

ヒーローだって存在しない

またこの映画には明確なヒーローが存在しない
主人公の矢口蘭堂はキーマンではあるがヒーローといった印象はない。
個性的なキャラクターも沢山いるがなんというか皆裏方という感じだ。
もしあるとしたら英雄的ではない日本のヒーロー的な美学だ。

アメリカ映画は「アメリカ万歳!USA!USA!」的なイメージだ。
それとドーン!バーン!敵を倒したぜウォォォ!といったテンション。
あとスマートに何でもこなせるキャラやカリスマ的リーダーがいたり。

だがこのシン・ゴジラにそんな中心的な人物はいない。
誰もが泥臭く誰もが人間臭い。良い部分も悪い部分も含めて日本人だ。
きっとアメリカ人が観たら絶対つまらないだろうなと思う。
でもそれでいいんだ。どこまでも日本的な映画だからこそのリアルだ。

アメリカ追従からの脱却と災害からの復興

というかむしろ何故今まで日本はこの表現をやってこなかったのか。
海外の映画に触発されそれを目指すのも良いだろうけど、
日本人にしか描けない日本ならではの映画は何故流行しなかったのか。

その意味ではこの映画はアメリカ的映画の価値観の破壊と創造だった。
映画はかくあるべきという、ある意味お約束のフォーマットを打ち破り
新たに日本人だからこそ面白いと思える空気を創造する事に成功した。

作中にも「日本はアメリカの属国だ」なんてセリフも出てくるが、
この映画自体もそこからの脱却を目指していたのだろう。
そして見事に新たな日本のオリジナリティを提示してみせた。


また作中には広島・長崎の原爆のカットがあった。
原爆については従来のゴジラからのテーマではあったわけだが、
しかし福島原発事故の描写は出てこなかった。多分。曖昧でゴメン。

まぁつまり、シン・ゴジラの世界は原発事故が起こる代わりに
その役目をゴジラが担って街を破壊しにきた世界という解釈も出来る。
そしてそのゴジラに日本が自らの力で果敢に立ち向かう。
日本は災害にも負けない強い国なんだというメッセージだ。

日本はアップデートされる

スクラップ&ビルド。破壊と創造。
今思えば庵野監督は「巨神兵東京に現わる」の中でも
それをテーマにしていたのかもしれないが、
創造についてはまだあの段階では片手落ちだったのだろう。

しかし今回、この次世代の日本映画を世に送り出した事で、
新しい価値の創造に成功したのではなかろうか。
日本だってやれば出来る、いろんな意味で本当にそう感じた映画だった。

シン・ゴジラのシンは「神」であり「真」であり「新」だ。
この映画は間違いなく日本をアップデートさせる。
少なくとも俺は今後の日本に新たな創造性の光を感じる事が出来た。


有難う庵野秀明。という事で次はエヴァ頼みます。
それなりに待とうと思ってたけどやっぱ出来るだけ早めにお願いね。