【Song】桑田佳祐 / ヨシ子さん [2016]
おっさん、サブカル始めました。
人気アーティストならば誰しもきっと「天才」と言われている筈だ。
それが仮に熱心なファンからだけの声だったとしても、
そんな「天才」と言ってくれるファンがついている時点で幸せだ。
ああ、俺もそんな天才コールをいっぱい浴びてぇなぁ。
まだ良く喋れない俺の娘に今から覚えさせて言わせようかなぁ。
俺は別に桑田佳祐の熱心なファンではない。
勿論好きなアーティストの一人だが、彼よりも好きな人も沢山いる。
しかし彼を天才と呼ばないわけにはいかないのだ。
というか彼が天才じゃなければ世の中の99.9999%は天才じゃない。
彼の凄いところはその貪欲さと引き出しの多さである。
そしてどんな事もエンターテイメントに変貌させてしまうその手腕。
彼の球種の豊富さは邦楽黎明期から今までの彼自身の経験に因るものか。
今回のソロシングル曲『ヨシ子さん』がとにかく面白いんだよ。
一聴してなんじゃこりゃという音楽、一見してなんじゃこりゃというMV。
とにかくごった煮だ。アジアンテイストであり歌謡曲でありレゲエっぽい。
『恋のマカレナ』っぽい懐かしさも感じる。そういう意味ではラテンぽい。
ビデオだって国も時代も分からない。理解しようにもできそうにない。
ま、簡単に言うと意味不明だ。真面目な人間ほど発狂しそうな世界観だ。
しかしこういう変テコな曲をA面としてシングルに出す辺りが桑田だ。
CM曲でお馴染みのカップリングの『大河の一滴』の方が、
よっぽどキャッチーなサビで耳馴染みしやすい曲である。
しかし敢えてこのヘンテコな『ヨシ子さん』を前面に打ち出している。
つまりこの曲こそが、今一番桑田佳祐が放ちたいメッセージなわけだ。
もう10年以上前か、シングル『東京』のときもそうだったよね。
CMにもなたB面曲の『可愛いミーナ』がどう考えても売れ線なのに、
重く冷たいブルース調の『東京』をA面として売り出したんだ。
結果的に『東京』も大ヒットはしたのだが、
可愛いミーナ』をA面にしていた方が売れたのは間違いないだろう。
しかし『東京』こそがその時桑田が歌いたい曲だったのだと思う。
そう考えるとこの『ヨシ子さん』、実に面白い曲なんだよ。
R&Bってなんだよ 兄ちゃん(dear friend)
ヒップホップってのオセーテヨ もう一度(refrain)
オッサン、そういうの疎いのよ妙に
Saturday nightはディスコでフィーバー
昨年のサザンのアルバム『葡萄』の時に桑田さん自身が語っていたが、
最近の音楽業界をとりまく事情についていこうとしても
もう分からなくなっている時があるらしい。
でもこのヨシ子さんは、
その事でムキにならずにある意味開き直っちゃってる歌詞だ。
「オッサンもう分かんないんだよー」という諦めのような歌。
EDMたあ なんだよ 親友(dear friend)
いざという時に 勃たないヤツかい?
サブスクリプション まるでわかんねぇ
ナガオカ針しか記憶にねぇよ
もう完全にオッサンである。
場末の酒場で下ネタ交じりに愚痴こぼして年下困らせてるオッサンだ。
リアルにこんなオッサンいたらホント勘弁して貰いたい。
そして二言目には「昔は良かった」とか言い出すんだよな。
だがこの辺りの歌詞はまさに時代の対比である。
Saturday nightだのナガオカ針だの昔の音楽文化を語り、
それが時代と共に変化をしているという事実が呑み込めなていない歌詞。
しかし俺は桑田佳祐が時代に取り残されているとは全く思えない。
大体本当に取り残されていたらEDMやサブスクリプションなんて
単語自体知らないだろ。曲を聴いても桑田佳祐はちゃんと流行の音楽も
追う努力をしていると感じる。ただの懐古オッサンでは無いハズだ。
そして曲の視点はサビ前にいきなりヨシ子ちゃんに変わる。
可愛いネエチャンに惚れちゃったんだよ
ヨシ子ちゃん~好きさ~
オッサンテンションが爆発だ。オッサンオブオッサン。
飲み屋だったらちょうどセクハラ発言が始まったくらいのオッサンだ。
ヤベェぞ手に負えない。奴の酒に毒を盛れ。それが正義ってもんだ。
前述の歌詞で時代の対比をした上で、
でも結局俺はこんな事歌ってるんだといったところじゃないかな。
ただ自虐的のように感じつつも、このストレートな歌詞こそが
いつの時代も普遍的なポップソングの王道と言っているようでもある。
そしてあの陽気でほわほわしたサビ。
真夏の太陽スゲエ high
最近はエロが足んねぇ
笑ってもっと baby smile
日本の男達(メンズ)よ やっちゃえ ホイ!
最近はエロが足りないと言いたい気持ちは共感はしないが理解は出来る。
昭和歌謡とかエロ満載だからな。時代を感じちゃうんだろう。
あと草食男子のケツを叩いている。ほっとけ。あと女子のケツも叩け。
しかし桑田もマンピーとか歌っていた頃と比べると、
大分マイルドな表現になった。でもこれも時代を意識しての事だろうか。
こそこそとコンビニの隅っこで成人雑誌を吟味してるオッサン。
そんな皆から距離を置かれた古きオッサン共の姿が思い浮かぶ。
でもそう考えるとこの歌詞の「日本の男達(メンズ)」ってのは、
若い草食男子の事では無くオッサン達の事のようにも思えてきた。
時代についていけずに煙たがられるようになったオッサン達への歌。
ディランだのボウイだの洋楽オッサン連中の名前が登場する辺り、
今のオッサン達も音楽に励まされていたでしょう?という
桑田佳祐なりの同世代に向けたエールに聴こえなくもない。
強引にまとめると時代は変わっても人が音楽を楽しむ文化は同じだ、
だから決して諦めはしないという彼の若い心意気を感じる曲だった。
「おっさんが頑張ってサブカルしました!あれ?でもなんか違う?」
みたいなちょっと寒い親父ギャグっぽさを感じつつも、
こんな曲を今の邦楽の最前線に堂々と送り込んできたその気概がスゴイ。
あと「エロ本」という言葉で拍子をとるとか、もうね、
オッサンが飲み会でやったとしてもシングルで発売するとかアホですよ。
もしこの曲で今年の紅白出たら笑ってやる。
投げ出しているように聴こえて実はまだまだ現役を感じる面白い曲。
還暦を迎えてもまだ活動を続けている彼の姿勢だけでその気持ちが伝わる。
引退してもいい頃だなんて思わない、稀代のエンターテイナーが彼なのだ。
是非とも紅白でこの曲やって欲しいぜ。
【採点】
・混ぜこぜ音楽 30点
・意味不明MV 30点
・感じる心意気 10点
・目指せ紅白で披露 10点
80点
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