脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】桑田佳祐 / がらくた [2017]


「がらくた」はズルい。

がらくた (通常盤) がらくた (通常盤)
桑田佳祐

曲名リスト
1. 過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
2. 若い広場
3. 大河の一滴 (Album Version)
4. 簪 / かんざし
5. 愛のプレリュード (Album Version)
6. 愛のささくれ~Nobody loves me
7. 君への手紙 (Album Version)
8. サイテーのワル
9. 百万本の赤い薔薇 (Album Version)
10. ほととぎす [杜鵑草]
11. オアシスと果樹園
12. ヨシ子さん (Album Version)
13. Yin Yang (Album Version)
14. あなたの夢を見ています (Album Version)
15. 春まだ遠く

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桑田佳祐ソロとサザンの違いってなんなの?
別に変わらなくね?

誰もが思ってるけどそれを言っちゃおしまいよー
みたいな質問、あるよね。


確かに音楽的には最近そこまで区別はつかなくなったけど、
実は当初はソロ活動の方がアングラ寄りで、
サザンの音楽がポップス寄りと言った雰囲気はあった。

でも波乗りジョニー以降はあまりその辺の意識はされなくなった
(と本人もどこかで言っていた気がする)という経緯がある。
確かに今ではもうぶっちゃけどちらでも良いって感じだ。


ただ、違いがあるとすれば、
桑田ソロはちゃんとシングル曲を直近のアルバムで回収してくれる
という安心感がある。それがベストだったりした時もあるけど。

サザンはアルバム未収録で放置されているシングルがかなり存在するの。
来年40周年だろ?ベスト出してよ?シングル曲回収してよ?




というわけで、安心して待ってた桑田ソロのアルバムである。
タイトルは『がらくた』。自虐的な意味も込められたのか、
個人的にはなかなか味わい深いタイトルでステキだと思う。

初回盤が何気に豪華で文庫本風のブックレットがついていた。

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「がらくた」ジャケット

「波乗文庫」と書いてある。ちょっとヨレヨレなのは娘のせいだ。

今回のアルバムがアヒルのジャケットだったため
娘が「あひるちゃん!あひるちゃん!」とやたら反応して
暫くおもちゃにして遊んでいた。俺は壊されないかヒヤヒヤだった。


しかしやっぱり桑田圭祐は強い。そう、彼は強いのである。
そりゃまぁ分かってたけど、やっぱり強いねと。
それを再認識させられたアルバムだった。

とにかく吸収してきているものの総量が圧倒的に違うのだ。
洋楽のロックレジェンド達にリアルタイムで触れ、
さらに日本の往年の歌謡曲達にも育てられ、
そして今も尚流行りの音楽を聴き続けている。
故に強い。こういう勉強熱心な人には揺るぎない強さがある。

アルバム収録曲『ヨシ子さん』では
R&Bって、HIPHOPって、EDMって何?」みたいに
流行についていけないおっさんを演じてたけどありゃ演技だね

テスト前に「やっべー俺マジ全然勉強御してねーわー」
とか言って周りを油断させつつ、
実はしっかり勉強してて高得点を取ってくる類のヤツ。
気をつけろ。基本的にこの手の発言は信用してはいけない。



この『ヨシ子さん』は無国籍感がある謎めいたサウンドで、
とても還暦超えたおっさんがやる音楽には思えなくて驚かされる。

しかしアルバムには懐かしさを感じる昭和のポップス然とした曲や
それこそ王道のJ-POP路線の曲まで雑多な種類の曲が収録されており、
『がらくた』というタイトルが実にしっくりくるタイトルだと思った。


しかしやっぱりズルイ。ズルイよ桑田。

俺は基本的にアルバムを聴く際は
全体としての流れや雰囲気、統一感を結構気にする。
まぁ俺はというよりもおそらく多くの人がそう考えていると思う。

以前の桑田のソロアルバム『孤独な太陽』や
ROCK AND ROLL HERO』はとてもコンセプチュアルな構成であり、
アルバム全体としてのカラーが非常に意識されているなと思った。

だが今回のはもう本当に寄せ集め。まさにがらくた。
でも桑田本人が『がらくた』って先に言っちゃってるわけで
そこを指摘したところでダメージを与える事が出来ない。
ズルイ。狡猾。『がらくた』ってホンマにパワーワードやで。


でもそれでも今回のアルバムを通して
俺が感じたのは「ノスタルジー」なのである。

勿論『ヨシ子さん』のような奇抜な曲もあるが、
あの曲も「攻め」と同時にどこか「安心感」を感じる。
多分それは夏祭りの祭り囃子を聴いているような感覚だ。

そういった伝統的な日本人のDNAレベルで認知する部分に
このアルバムの楽曲たちは訴えかけてきてると思われる。


2曲目の『若い広場』はNHKの朝ドラ『ひよっこ』の主題歌だが、
まさにノスタルジーを感じるのびのびとした合唱歌のような曲。

朝は毎日NHKのニュースを観ている我が家では、
ニュースが終わった8時にそのまま朝ドラが始まり
いつもこの曲がテレビから流れ出すのだが、
そのタイミングでいつも出社している俺は朝ドラは観ていない。

ただ、テレビでこの曲を最初聴いていた頃は
「ピンと来ない曲だなー」くらいの感想だったんだけど、
いざアルバムでフルバージョンを聴いてみると、コレ良い曲じゃん!

イントロもAメロもテレビサイズで聴いていた時とは違い
とても味わい深いメロディだった。めちゃほっこりする。
こういう発見があるから面白いんですよね。
あと『若い広場』って言葉の言いまわしが実に桑田だよなぁ。


そして『オアシスと果樹園』にも注目したい。
基本的に桑田はメロディが先にあって後から歌詞をつけるという
"曲先"のスタイルで曲を作る事で有名だが(故に語感重視の歌が多い)、
この曲については珍しく歌詞を先に書いてから曲をつけたらしい。

しかし聴いてる限りは特に他の曲と変わった印象は無い。
それどころかメロディへの歌詞のノリ方がむしろハマっているし、
特にあの低い調子でノリ始めてじわじわとアガっていく渋いサビは
いざ作ろうとすると難しいと思う。いぶし銀の成せる技か。



アルバム全体の流れはいつものように
1曲目にロックンロールベースの導入的楽曲で始まり、
最後はしっとりとしたバラードで終わると言う桑田お決まりのパターン。
正直またコレかと思わないでもないけど、これってもう桑田というか
大体のアルバムの「様式美」みたいなもんだよね。

あと既発曲が多い。
これはまぁシングル曲をちゃんとアルバムにも収録するという
桑田ソロの意向みたいなところもあるんだろうけど。
しかしそれによってより雑多な寄せ集め感が大きくなったのも否めない。

というわけでまさに『がらくた』でありながらも
アルバムを通してノスタルジーさとそれぞれの楽曲の味わい深さ、
そして桑田圭祐というアーティストの強さを再認識したアルバムだった。


ただ桑田本人は今回のブックレットの中で
「歌い手やバンド風情にアーチストって呼び方は腑に落ちない。
 いつからこう呼ばれるようになったのかは知らんけど、アタシも
 明日からアーチストと名乗ってベレー帽でも被ろうかしらん?」
と語っていたように、高尚な芸術をやっているような気持ちは無い。

ビートたけしも昔似たような発言をしていたと思う。
結局は自分がやっている事は大した事でも何でもなくて、
だけどメディアなどで持ち上げられる機会が多いと
なんだか凄い大それた存在に思われてしまうというジレンマがあるんだろう。


桑田はそういった気恥かしさもあって今回のアルバムに
『がらくた』と名付けたんだろう。別に大したことはねぇ、
だからこそ気楽に身構えずに聴いてくれよ、みたいなね。

しかしよく考えると自分が生み出した作品を「がらくた」と呼ぶのは
なかなかに勇気がいる行為じゃあなかろうか。
本気でそう思っているかは別にしても、
それでも「がらくた」なんて名付けるのは気が引けそうだ。

まぁよくある「つまらないものですが…」みたいな感じで
贈り物を渡す日本の礼節のような、そんな表現に近いのかも。
遜って言えば何事もうまく収まるみたいなね。

でもそう言って贈り物渡されてマジでつまらない物が出てきた時
あのなんとも言えない気分、あの気分に誰か名前をつけてくれ。
明らかにネタだと分かるならいいけど、そうじゃない時もあるじゃん?

そりゃあ物貰っといて文句言うなんて言語道断なのは前提だけど、
「いやいやwwつまらないとか言うてもww本気でそんなわけwww
 …あ、本気でつまんないなコレ。」みたいな場合もあるじゃん?


そんなわけでこのアルバム『がらくた』、
果たして本当にがらくたなのかどうか?

俺はがらくたなんて思わなかったけど、
これをがらくたと思うかどうかは聴いた貴方次第だ。
ちなみに嫁は今回のアルバムをかなり絶賛していた。

とりあえず贈り物は表面上はニッコリ受け取りましょうね♪


【採点】
・ズルいタイトル   30点
・桑田の職人芸    30点
・結構ノスタルジー  20点
・子どもに渡すな危険 -3点
77点