脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】椎名林檎 / 三毒史 [2019]


鶏と蛇と豚と私。

三毒史 三毒史
椎名林檎

曲名リスト
  1. 鶏と蛇と豚
  2. 獣ゆく細道
  3. マ・シェリ
  4. 駆け落ち者
  5. どん底まで
  6. 神様、仏様
  7. TOKYO
  8. 長く短い祭
  9. 至上の人生
 10. 急がば回れ
 11. ジユーダム
 12. 目抜き通り
 13. あの世の門

Amazonで詳しく見る by G-Tools


かつて超ダサイCDジャケットとしてネット上で話題になった
ライムスターの『マニフェスト』というアルバムがある。

奇をてらったジャケットというのはともすればリスクになりかねない、
そんな好例がこのアルバムであろう。
ライムスターは結構好きなんだけどダサさについては俺も否定出来ない。

しかしこのジャケットがさんざんいじられた事もあったし、
さすがにもうケンタウロスみたいな恰好をしたジャケットなんて
誰もやらないd…


林檎ちゃあああああああああん!!


馬!そして鎧!あと羽根まで生えてる!
あかん!あかんて!そういう事やるからいじられるんやで!


…しかし、このジャケットについて椎名林檎本人は
「ちょっとレジに持っていくのが恥ずかしいくらいの方が良い」
みたいなコメントを楽しそうに語ってらっしゃるんですよ。

林檎班のみんな、試されてます。大丈夫?
そういや前作『日出処』のジャケットも大概やったしなぁ。
つーか日出処って言うより日出郎やったしな。

しかし長年飼いならされている林檎班からすれば、
そんな林檎ちゃんのCDをレジに持っていく事など造作も無いハズ。
俺?俺はタワレコオンラインで頼んだから
段ボールに包まれていたのでノーダメージよ?ぬははは。


そんな椎名林檎さんの最新アルバム『三毒史』です。

”三毒”ってのはWikipediaによると

仏教において克服すべきものとされる最も根本的な三つの煩悩、すなわち貪・瞋・癡(とん・じん・ち)を指し、煩悩を毒に例えたものである。三毒は人間の諸悪・苦しみの根源とされている。ブッダの説いた根本仏教、大乗仏教を通じて広く知られている概念である。

だそうです。
広く知られている概念なのに知りませんでした。
ためになったねー。ためになったよー。


アルバムの冒頭を飾るのがこちら『鶏と蛇と豚』だ。



いきなり般若心経が流れ出すので、林檎慣れしてない人は注意してね。

この曲のMVにも出てくる鶏と蛇と豚というのが、
それぞれ三毒の貪(貪り)・瞋(怒り)・癡(愚か)を象徴しているらしい。
MVの最後の方でこれまで椎名林檎が公開してきた曲の
MV数種類が一瞬だけ映り込むカットもあるし、
今回のアルバムのタイトルトラックとも言える重要な一曲である。

ちなみにMVの後半で豚が高く浮かび上がるシーンがあるが、
ここでピンク・フロイドの『アニマルズ』を思い出した方もいるだろう。

アニマルズのジャケットでも豚が空高く浮かんでいるわけだが、
ここでの豚は肥え太った資本家を喩えたものなので意味合いは異なる。
でもまぁ豚が空から市井を見下ろす社会というのはいずれにしても
気持ちの良いものでは無いんだなぁと改めて感じさせる描写だ。


そんなオープニング曲からノンストップで次の曲、
エレカシ宮本とのコラボ曲『獣ゆく細道』へと繋がる。



コレね、昨年公開された時はそこまで好きでは無かったんだけど
やはりアルバムマジックというのは存在するね。
このアルバムの2曲目として聴くと凄い強力打者になっている。
こんな風に再評価しちゃう曲が生まれるのもアルバムの面白さよ。

つーかこの動画、ライブ会場にミヤジ来てたのかよ。豪華だなぁ。


そう、今回のアルバムの聴きどころは何と言ってもコラボ曲でしょう。
林檎ちゃんが他のアーティスト、それも殿方とコラボした曲が
多数収録されているのが非常に特徴的なわけです。

コラボってのは今や洋楽じゃ当たり前のトレンドなんだけど、
なかなか日本ではお目に罹れなくて、
でも林檎ちゃんがこうやって大放出してくれるので嬉しい限り。


今回のアルバム、収録時間や曲名がシンメトリーになっているのは
椎名林檎の拘りとしてすっかりお馴染みの要素なんだけど、
椎名林檎単独の曲とコラボ曲が交互に収録されているのも注目。

あとついでに曲名も全て5文字だったり
『獣ゆく細道』と『目抜き通り』、『どん底まで』と『至上の人生』が
対となる位置にあったりするのも見逃せない要素である。


上記のエレカシ宮本とのコラボ曲の他にも4曲目は
BUCK-TICKの櫻井敦司とコラボした先行配信曲『駆け落ち者』。

Mステでも披露され(しかもバックバンドが豪華だった!)、
話題となった重厚な曲。曲の内容にある様に正反対の番同士が
せめぎ合ってスリリングな展開を見せる気迫満点なコラボだ。

そして再結成が話題となっているナンバガ向井秀徳とのコラボ曲
『神様、仏様』。



椎名林檎のコラボ曲はなんだかんだで相手とユニゾンで歌う事が多く、
きっちりと歌のパートが棲み分けされている曲は意外とこの曲くらい。
そりゃまぁ「くりかえされる諸行無常~」のフレーズは
向井の専売特許なので彼が歌わないと効果を発揮しないしね。


そして浮雲とのコラボ曲『長く短い祭』。



『神様、仏様』と同シングルで2015年に発表された曲だけど、
改めて聴くとこの曲も凄いアレンジしてるよね。
歌詞も人生と若さと刹那的に過ぎる夏を重ねる林檎ちゃんらしい内容。


そして次の『至上の人生』もまたね、良かった。



これもリリース当時は林檎ちゃんにしては凡庸だなとか思ってたけど
このアルバムの中で聴くと魅力を放っている。
というか今更だけど凄い椎名林檎初期っぽいよねこの曲。
ギターの歪ませ方とかメロディとか歌詞とかちょっとノスタルジー。


ヒイズミマサユ機とのコラボ曲『急がば回れ』も初期林檎っぽかったな。
ヘンテコな音と言葉で内容が全然聴き取れないところ、
でもちゃんと聴くと毒毒しくて尖ってるってのがクール!


一転してNHKのガッテン!のテーマ曲『ジユーダム』は
あの椎名林檎嬢の「わーい」と喜ぶ様が聴けるという個人的激アツ曲。
「頓智」という言葉がふんだんに使われて聴いててとても楽しい一曲だ。
ちなみに林檎ちゃんはためしてガッテンのファンだったらしくビックリ。


そしてトータス松本とのコラボ曲『目抜き通り』!
もうこの曲については言う事はないくらいですね。最高。



GINZA SIXのテーマ曲として書き下ろされた多幸感に溢れるナンバー。
配信リリース時とは異なり、アルバム収録バージョンでは
曲の入りの英語詩(フランス語詩)部分もトータス松本が
一部担当して歌ってる模様。トータス松本の外国語は新鮮だった。

あとこのライブ映像もトータス松本本人が登場してて興奮ヤバすぎ。
コラボ曲ってライブの時大変そうだなとか思ったりするけど、
本人が来てくれた時のテンション上がりっぷりは想像を絶するよね。
そして歌ったらすぐ捌けるトータス。使い方が贅沢!贅沢は味方!


さてさて、そんなわけで三毒まみれの生活をしている自分を
顧みる事すらせずに楽しませてもらっているアルバムです。

いやだって別に三毒に立ち向かえ的なそんな感じでも無かったしね。
三毒ってのをちゃんと認識して生活出来ればいいんじゃないかと
俺は捉えましたよ。ええ、鶏と蛇と豚と共に生きていきます私。


ただ正直、愚痴も言わせて貰うとですね…、

既出曲多すぎ!ですかね。


林檎ちゃんには平時からさんざんお世話になっているんだけど、
いやむしろお気に入りのアーティストだからこそ
アルバムの半分くらい知ってる曲ってのは新鮮味が無いのよ…。

一応、アルバム曲として聴いて新たな魅力に気付いた曲もあるし
気持ち的にはまぁベスト盤みたいな気分で聴けばいいんだけど、
オリジナルアルバムとして聴いてる以上は物足りなさは拭えない。

なんだろう、『日出処』の時も既出曲が結構多かったんだけど
今回のアルバムはよりそう強く感じてしまったんだよね。
うーん、やっぱり既出コラボ曲の印象が強すぎたせいかねぇ…。


しかしこの約5年間の林檎ちゃんの活動記録として、
そしてデビュー20周年イヤーの総括として、
ピリオド的なアルバムではあったのかなと思います。

椎名林檎に影響受けたであろう椎名林檎的なアーティストってのも
今やすっかり珍しくもなくなり沢山活躍をしているわけですが、
ここでオリジネイターとしての存在感を再度見せつけた
これぞ椎名林檎!って形に収まった一枚でもあります。

あと初期っぽい雰囲気も結構あるので、
かつての林檎リスナーにもいいかも。

ジャケットにひるまずに、是非手に取ってみて下さいな。


【採点】
・コラボ曲の強力さ    50点
・初期林檎感もあり    30点
・ジャケットを讃えよ    5点
・結局三毒には抗えない… -3点
82点