脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】PUNPEE / MODERN TIMES [2017]


一般人最強。

MODERN TIMES MODERN TIMES
PUNPEE

曲名リスト
01.2057
02.Lovely Man
03.Happy Meal
04.宇宙に行く
05.Renaissance
06.Scenario (Film)
07.Interval
08.Pride
09.P.U.N.P. (Communication)
10.Stray Bullets
11.Rain (Freestyle)
12.夢のつづき
13.タイムマシーンにのって
14.Bitch Planet
15.Oldies
16.Hero

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前回に続きましてまたまた今更ながらのCDショップ大賞の話。
台風クラブと同じくCDショップ大賞2018の準大賞を授賞しました、
PUNPEEの『MODERN TIMES』で御座います。

もう先に言ってしまうけどね、このアルバムは凄かったよ

台風クラブについては厳しめに準大賞は過大評価とか言ったけど、
このアルバムは過大評価どころか大賞でも良かったと思うくらいだ。
というかCDショップ大賞の主旨に物凄く合っている一枚だった。

 

drr.hateblo.jp


さてさて、台風クラブについてはぶっちゃけ名前すら知らなかった
と話したんだけど、このPUNPEEさんはさすがに知っていましたよ。
まぁ結局このアルバムを聴いたのは今年に入ってからなんだけどね…。


別のアーティストの曲で良く名前を見かけるし、
フジロックにも出演したDJ、敏腕トラックメイカーのPUNPEE

一般的に有名なのは水曜日のダウンタウンのOPなんかな。


あとPUNPEEがリミックスした宇多田ヒカルの『光』が、
全米Itunesチャートで最高2位になったときも注目されたね。


そんなわけで既に大ベテランな風格が漂っていたPUNPEEなんだけど、
実は意外にも今回の『MODERN TIMES』が公式1stアルバムだそうだ。
つまりはずっと裏方で活躍していたタイプの職人さんだったわけだ。
そんなPUNPEEが満を持して発売したアルバムなら期待しちゃうっしょ。

といいつつ、俺は過去にも何回かヒップホップ系の話で触れたけど
ヒップホップ界隈については正直詳しくないし普段あまり聴かないの。
だからPUNPEEの新作もCDショップ大賞になってなきゃ
多分聴く事は無かったんだろうなと思っている。

だってさ、ヒップホップってロック以上に細かい独特の文化圏があって
めちゃめちゃ気を遣うんですよ。下手にぶっこむと火傷しちゃうの。
ほら俺面倒くさがりだし気遣いとか出来ないタイプじゃん?
だから多分会社でもアイツはダメだとか言われてるんですよきっとね。

だからPUNPEEのこのアルバムも聴かなくてもいいかと思ってたけど、
そこは権威にヘコヘコする俺、会社でも上の言う事には絶対服従
CDショップ大賞の準大賞作品と言われれば聴いておかねばなるまい!


そんな経緯でヒップホップのアルバム自体久しぶりに聴いたんですが、
いやぁコレなんて言うのかな、どういうカテゴリーのヒップホップ?
これまで俺が聴いた事があるヒップホップ音楽のどれとも違った。

先程少し触れたようにヒップホップには独自の文化圏があって、
ある程度評価されやすいフォーマットというものが存在するし
あと他のアーティストとの対立とか先輩後輩とかリスペクトとか
頭に入れておかないといけない前提知識もあって初心者にはキツイ。

また一般的な売れ筋のヒップホップを「セルアウト」とか言って
ディスっちゃう方々も一部いらっしゃるのがまた難しいところで、
とにかく芸能界みたいに面倒な要素が散らばっている世界だ。


しかしこの『MODERN TIMES』というアルバムには
そんな既存のヒップホップの数々の「流儀」みたいな要素が一切無い
まずこれが凄い!完全にPUNPEEは独自の存在となっているのだ。

「なんかゴタゴタやっとるけど、俺はこっちで好き勝手やるね」
みたいな、完全にこれまでのヒップホップの流れから分断された
新天地で繰り広げられている音楽だ。だから逆にヒップホップ界を
良く知らない人でも新しい気分で楽しめる新機軸の一枚なのだ。


アルバムジャケットがまずイカす。こういうの好き。
MODERN TIMES
アメコミや映画とかが好きなPUNPEEらしい、
懐かしのアメリカ映画を感じさせるジャケットのイラスト。
これで『MODERN TIMES』というタイトルをつけるセンスがまた絶妙。


そしてまたアルバムの内容がめちゃ緻密に構成されているのね。
このジャケットともリンクする話なんだけど、
未来にタイムスリップしたSF映画のようなストーリーになっているのだ。

1曲目は『2057』。そう、40年先の未来だ。
この曲は正確には曲ではなくイントロデュース。
PUNPEEと思われる老人が訪問者に昔話を語り始めるシーン。

つまり40年後の未来におじいさんとなったPUNPEE自身が
この作品を久々に振り返るといういうスタイル
アルバムが開幕するのだ。PUNPEEらしい憎い演出である。

そしてアルバム前半はキャッチーで聴きやすいトラックが中心。
4曲目の『宇宙に行く』なんかは特にノリが良くて、
「面倒なことは考えずにぶっとんでやる」というスタイルが現れている。

「地球の事はどうでもいいのさ」
「不祥事あると地球じゃ公開処刑

社会の事を憂うラッパーは数多くいるけど、
そういう次元では捉えずに「自分にゃ関係ないしどうでもいい」と
突き放すPUNPEEのこの辺りの姿勢に爽快感を感じるのだ。

ただ公開処刑という単語にはヒップホップクラスタ
ちょっと反応するんじゃないだろうか。

PUNPEEがあの件を意識して敢えてこの言葉を使ったのかは知らんが、
「東京代表」や「一点突破、HIP HOPPER」いう単語も
別の曲で登場しているので、そういった匂いも少し感じさせる。
でもそれすらもハッキリさせないのがPUNPEEの憎いやり方だねー。


そして7曲目『Interval』で小休止。
再びおじいさんのPUNPEEが登場し「あの頃」の事を語りだす。

なんでもあれから3枚のアルバムを発売し、
どうやらクソレーベルからベストアルバムも出たらしい。
本当に今後その通りになるのかが気になるところですね。

そしてアルバム後半はポップ寄りだった前半に比べて対象的。
ハード、ドープなヒップホップ好きの耳にも応えるべく、
コア寄りな音楽が展開される。こういう曲をしっかりやるのも見事だ。

あと歌詞カードには無かったけど『Rain (Freestyle)』には
水曜日のダウンタウン」というワードも登場している。

そして『タイムマシーンにのって』からまた明るい雰囲気になり、
一旦『Oldies』でこのアルバムのストーリーは幕を閉じる形だ。

『Oldies』の最後ではまたあのおじいさんのPUNPEEが登場し、
「飽きるのは簡単だ。楽しむ事、例えそれが小さな変化でもな」
というセリフを残す。映画を観た後のような心地よさが広がる曲だ。

そしてアルバムの曲順ではラストの曲『Hero』は、
映画で言うところのエンドロールに当たる曲らしい。



PUNPEEはアルバム発売までギリギリ構成に拘っていたようで、
とにかくアルバムに対する熱量が半端ないと感じた。

自分の事を「一般人」と称してPUNPEEと名乗ってるらしいが、
どう考えても一般人じゃないぞコイツ。どう考えても職人。
つーかこんな事考える奴が一般人だとしたら一般人のハードル高すぎ。
だからせめてPUNPEE一般人最強にしといて。つまりクリリンの事。


さて、そういった職人芸を堪能できるという意味でも、
この作品はCDショップ大賞向きだと思ったんだけど
何よりもこのアルバムはCDである意義がとても大きい一枚という点。
この部分に俺は深く感動したのである。

このCDにはいくつか仕掛けがあって、
例えば歌詞カードのスペシャルサンクス欄を縦読みすると
「ちくしょうみつけたなキ〇ガイめ
 いつもありがとうねすこやかにすごせますよおにまたねん!」
というメッセージが浮かび上がってくる。

ダウンロードでは味わえない楽しさだ。
あと何故かちょっとツンデレ風味なメッセージである点もカワイイ。


さらにだ、このアルバムは懐かしの「プリギャップ」が隠されている!
BUMPとかも昔やってたんだけど、CDをCDプレーヤーにセットして
最初の1曲目のトラックを巻き戻しすると隠しトラックが現れるヤツ。

この『MODERN TIMES』にはプリギャップがあると聞いて
俺も確認してみたんだけど、そこでなんと驚愕の事実が判明した。
ここまで楽しみながら聴いてきたあのおじいさんPUNPEEは実は…

おっと、これはびっくりなどんでん返しのネタバレになるので、
ここは敢えて伏せておきたい。しかしそういった部分も含めて
本当に「CD」として楽しめる要素が散りばめられた作品だった。

他にも仕掛けがあるらしいけどまだ明らかになっていない。
多分だけど今後またPUNPEEが何か出すたびに、
「ああ、あの時のあれはそういう意味だったのか!」という
富樫先生ばりの伏線がこのアルバムに込められているのだと思う。


というわけで、映画みたいな展開という点だけでも面白いんだけど、
しかしそれ以上に「CD」という媒体に意味を持たせたところが重要だ。

最近はみんなスマホで音楽を聴くので、
そもそもCDの再生機器自体を持っていないという人も多いらしい。
その点に関しては俺は別に意義は無い。時代には抗えないもん。

でも、だからこそCDである事に付加価値を持たせるというのは
今後CDを制作していく上でとても重要になってくるんですよね。
例えば今作のプリギャップの仕掛けなんかは
そもそもCDプレイヤーがないと楽しめない要素なわけで。


だからこのPUNPEEの『MODERN TIMES』は、
内容もさることながら、随所に散りばめられたその仕掛けこそが
まさにCDショップ大賞」にピッタリだったのである。

ダウンロードではなくちゃんとCDを手に取る、
その価値について改めて考えさせてくれたアルバムでした。

プリギャップのオチが気になったけどCDプレイヤーが無いという方、
これを機に買ってみませんか?メルカリとかならきっと安いよ?

もしくはウチくる!?


【採点】
PUNPEE待望の1st    30点
・孤高のヒップホップ  30点
・仕掛けが盛り沢山   20点
・俺も一般人になりたい -1点
79点