脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Song】Oasis / Don't Look Back In Anger [1995]

ルックバック笑顔の世界。

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7月に公開された『ルックバック』という漫画が話題である。

ジャンプの『チェンソーマン』が人気の漫画家藤本タツキ先生が描いた
読み切り漫画である。読み切りといいつつめっちゃページ数が多かった。


先日単行本化されて反響も大きい。

natalie.mu

※最初に公開された時とは内容は若干修正されているっぽい。
 話題になったが故に色々と意見も出てたからなぁ…


流行にしっかりキャッチアップするおっさんという事に定評がある俺も
ちゃんと7月に全編公開されているときに読みました。

その時はあまりにみんなが「名作」「感動」「これはヤバイ」みたいな
全米ナンバーワン並みの反応をネットに垂れ流すもんだからそりゃ読むよ。
これ読んで心を動かされない奴は人間じゃない」ばりの大絶賛の嵐だったし。


今は完全版がもう非公開になっているので冒頭部分しか読めないけど

shonenjumpplus.com



でも当時は大ボリュームに関わらず無料で全部読めました。さすがジャンプ+太っ腹。


読んだ感想。


面白かったけど

そんな名作名作と持ち上げられるほどでもないかな。


……………


いやいやいやいやいやまてまてまてまて!落ち着け!
個人の感想にいちいち目くじら立てるな!ブラウザ越しに中指立てるな!
あと逆張りとかでもないから!本当に素直に思った事を言っちゃっただけなの!!


分かってる。皆が言いたいことは分かってる。

「お前が紹介したアルバムだって
 そんな名盤名盤と持ち上げられるほどのもんでもなかったぞコラ」

だろ。うん、大丈夫。俺はいちいち個人の感想を否定しない大人だから安心しろ。



『ルックバック』はねぇ、いい漫画だと思うよ。
やっぱりストーリーだけじゃなくあの構成、見せ方、描写がいいし、
個人的にも好きな漫画だった。

ただなぜみんながこんなに騒ぎ立てているのかって話で。
ルックバックの他にもみんな色々面白い漫画を知ってるはずだろうに
この漫画だけが特別にここまで持て囃されたのはなんでだろうという事だよ。


まぁでもその理由は結構明白でこれが「無料で」「WEBで」読めた事ですよね。

ページ数も無料漫画としては破格の多さだしジャンプ作家という事もあって
WEBで公開⇒すぐに話題が共有される⇒瞬く間に大反響という流れ。
むしろこの流れがあったからこそ俺の元まで情報が届いたわけで。


こういう話って音楽でもありましてね、
レディオヘッドの『In RAINBOWS』って言うんですけど。

世界的に有名なバンドの新作アルバムが無料で聴けちゃうんだけど
購入する際にはなんと買い手側が好きな値段でダウンロードするという
価格設定をこちらに委ねてくる衝撃的手法で公開されたアルバムだ。


こういうのって内容以上に歴史に残るものなんですよ。

だから今回の『ルックバック』も漫画カルチャーを語る上での
歴史的な出来事としてきっとみんなの心に残ると思うんです。
実際に『ルックバック』はジャンプ+歴代最高の閲覧数を記録したそうですし。
勿論内容が伴ってないとダメだけど、「現象」もまた重要になってくるんですよ。


そして今後はWEB漫画でインパクトを与える作品がどんどん出てくるわけですね。
すでに同じジャンプ+で『ダダンダン』とかはもう凄い人気だ。

shonenjumpplus.com


はい、毎週楽しみに読んでます
ダダンダンの画力はすごいよね。シリアスタッチとギャグタッチのバランスも好き。
ただ「ダンダダン」だったか「ダダンダン」だったかいつも分からなくなる。

ちなみにだんだだんはアンパンマンですね。



あとインパクトという意味では俺は
『ルックバック』よりもちゃおの『笑顔の世界』の方がヤバかったな。

ciaocomi.tameshiyo.me


これはまだ全部読めるみたいね。これをちゃおが公開したという事実に戦慄した。



…ってなんか漫画紹介みたいになってるんですけど。


いかんいかん、本題を見失ういつもの俺のクセがでちまったぜ。


さて、この『ルックバック』が話題になると共に
注目された曲が今回の曲『Don't Look Back In Anger』なのである。


オアシスの名曲であり日本でも抜群の支持を集めるオアシスの人気曲であり
一応俺のカラオケのメインレパートリーの一つである。

…本当はオアシスなら『Morning Glory』の方が歌ってて気持ちいいんだけど。。。
みんな知らないんだもん。「やっぱドンルクだよねー」ってなるんだもん。。。
そこで周りの目なんか気にせず「私の歌を聴けぇぇぇぇ」とか言えたらなぁ。。。


『ルックバック』の漫画の内容を読めば確かに『Don't Look Back In Anger』の主題、
「怒りで過去を振り返らないで」というテーマを彷彿とさせる話だし
漫画のタイトルが『ルックバック』という事でも共通点はある。

でもルックバックはシンプルに「振り返る」という意味だし、
ルックバックだけならオアシスのこの曲以外に重なるものは色々あるし、
そこでオアシスのこの曲にこじつけるのもなんか無理矢理感が…


と思っていたら。


なんと『ルックバック』の漫画の最初と最後に単語があったんですね。

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これは…
間違いなく『Don't Look Back In Anger』だ!!


なるほど、だからみんなドンルクドンルク騒いでいたのね。
よし、ここからブリットポップの再ブームよ日本に到来しろ。


ただこの『Don't Look Back In Anger』という曲、
日本だけでなく世界的にも後から新しい意味を持った曲になっているんですよ。

今まさにアフガニスタン情勢でタリバンのみならず
イスラム国の動きも警戒されるようになってきている時だけど
そんなイスラム国が関与したとされる2017年に起きたテロ事件。

イギリス、マンチェスターで行われていた
アリアナ・グランデのコンサートのロビーで発生した爆弾テロ。
多数の死傷者が出てイギリスは騒然となった。

nme-jp.com


もう4年が経過して正直俺も「そんなことあったな」程度に忘れていたが、
『Don't Look Back In Anger』が注目を浴びた事で思い出した。


オアシスと言えばイギリスではみんな常識レベルで知っているバンドで
オアシスのアルバムは一家に一枚レベルで皆が所持していると聞いた事がある。

俺もオアシスのアルバムは全部持ってるんだけど、
やはりこのドンルクも収録されている2ndの『モーニング・グローリー』は
圧倒的な名盤で間違いなく俺の歴代洋楽アルバムのTOP5に入る素晴らしい作品だ。


そんな『Don't Look Back In Anger』はこの悲しきテロ事件をきっかけに
テロ犠牲者への追悼歌になりテロに対抗するアンセムとして広がっているのだ。


テロの犠牲者を追悼する式典でのこと。
黙祷が終わった後に一人の参列者がこの曲を歌い始めた。

すると周りの人も歌い始め即興で合唱が起こったのである。

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以来この曲は世界的にもテロ事件のアンセムという認識が広がっていった。


アリアナ・グランデはテロ後のチャリティーコンサートで
コールドプレイと共にこの曲を歌い、翌年の追悼式典でも歌っている。
2019年にもアリアナ・グランデはマンチェスターで開催された
LGBTQイベントのライブで大トリを務めるなど現地を想って活動している。

マンチェスターと言えばオアシスの故郷でもあるし、
また音楽においてもマッドチェスターなどのカルチャーを生み出してきた
歴史的にも非常に重要な場所で、特に地元民からのオアシスへの愛は凄まじいらしい。

集会で歌い出した女性も
「オアシスは子供時代の人生の一部だったわ。
 “Don’t Look Back In Anger”は……これこそが今の私たちにふさわしい歌だなって。」
と語ったそうである。

rockinon.com



こうなるとオアシスも再結成して欲しいんだけど…どうかなぁ。
弟のリアムは乗り気みたいだけど兄ちゃんのノエルがどうかなぁ。


そう、オアシスはあの暴言兄弟のキャラクターのせいで
色んな意味で人々の耳目を集めやすいバンドだった。
そのクセしてこの『Don't Look Back In Anger』のような
めちゃくちゃいい曲を作るもんだからそこがいつも不思議だった。

日本人にも馴染みやすいメロディに加えて終始無駄のない完璧なまでの曲構成で
人間ってこんなに美しい音楽が作れるのかと改めて思い知らされる程である。
イギリス本土以外でも大合唱が起こる理由が本能的に分かる。

そして今回の話で注目すべき歌詞。

But don't look back in anger
I heard you say


サビの終わりの歌詞である。

「怒りで過去を振り返らないで
 というあなたの言葉が聞こえた」

怒りにまかせて感情的になってはそれこそテロを起こした人間の思うつぼだ。
当然ノエルは当時はこんなテロの事を想定して書いたわけではないのだが、
この歌詞が持つ強力なメッセージ性が時代を超えて人々に響いているというわけだ。


藤本タツキ氏の『ルックバック』にもそんな意味が込められている。

漫画を読んだ方には分かるだろうが、
『ルックバック』では理不尽でどうしようもない事で失われるものが描かれている。
しかもそれは自分が引き金となっているかもしれない事だ。

これは誰もが心得ていなければならない事なのかもしれない。
自分もまたもしかしたら無意識的に誰かの人生を狂わせているのかもしれない。
また逆に知らないうちに誰かに人生を狂わせられているのかもしれない。

(無意識的に誰かを傷つけてしまうという点では、
 ちゃおの『笑顔の世界』も当て嵌まってしまうのがまた恐ろしいところだ)


アリアナ・グランデも自分のコンサートでテロが起きるとは夢にも思っていなかった。
もし自分がコンサートなんか開かなかったら死なずに済んだ人がいた。
そんな事を日々考えては想像を絶するような苦悩を味わったんだと思う。

しかしそれでも俺らは前を向いていかなくてはならない。
怒りに任せるのは良くないし自分を責めすぎるのも良くない。
そしてオアシスも「過去を振り返るな」とは言っているのではなく
過ぎ去った事に感情的になるな」という事を歌っている。

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ルックバックはしていいけどルックバックインアンガーはしないでくれ。
ノエルの歌声は俺たちの心にそう呼びかけているのだ。


『Don't Look Back In Anger』は元々名曲であったけれども、
こうした人々たちの想いによってさらなる名曲として伝承されていく。

本当は俺はね、気安く名曲とか名盤とかいう言葉を使いたくないんだけどね、
仕方ない。ドンルクは名曲だしオアシスの2ndは名盤なのである。
もうこれは否定しようがない事実として歴史に刻まれているのである。


そして2021年の日本、漫画『ルックバック』によって
また新たなストーリーが『Don't Look Back In Anger』に追加された。
こうやってじわじわと名曲が醸成されていく様を我々は目撃しているのであり、
後から振り返った時に我々が証言するのだ。こんな事があったよ、と。


誰しも過ぎ去った事にカッカしないで冷静でいられるようにしたい。
そして本当の意味で「笑顔の世界」を作っていけたらいいですね。

…とまぁこれを歌っていた張本人たちがいつまでも再結成しない事で、
曲の方ばかりが本来のパワー以上の意味を持ちすぎてしまって
なんだか超越した存在になったという事実も見逃せまないけど(笑)

冷静になったら再結成するんだろうか。どうだろうか。
でもオアシスって再結成しないのもそれはそれで彼ららしいと言えるが。


【採点】
・世界が頷く名曲  50点
・テロへの追悼曲  30点
・ルックバック加点 10点
・再結成への期待点  3点
93点