脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】羊文学 / POWERS [2020]

サブカル難民への新たな光。


サブカルって何だろうか?
サブカルとオタクの違いって何だろうか?
今の日本にサブカルと呼ばれるものは存在するのだろうか?


これらのサブカルに関する問題は日本における超難問として認識されている。
多分東大生すら解けない。

また世界的・歴史的に見た場合でも
「フェルマーの最終定理」「ポアンカレ予想」「サブカルチャー理論」の3つは
これまでも数々の猛者が挑んでは敗れ去っていった難解な三大問題として有名である。

しかし「フェルマーの最終定理」「ポアンカレ予想」が解かれた今、
残された問題は「サブカルチャー理論」となるのだがこの問題は非常に難しい。
何故なら時代と共に答えが徐々に変化しているとの指摘が相次いでおり、
一貫性を持った解が準備できないと多くの者が納得できるものにはならないからだ。


どうですか皆さん。みなさんも心の中に自分のサブカル魂を持っていますか。
今日もサブカルアンテナはビンビンですか。5Gには対応していますか。
怪電波を受信してはステキなドーパミンを分泌して心身共に健康を保ちましょう。


さて、日頃からくっせぇドーパミンを潤沢にまき散らしてる俺におかれましては
そろそろサブカル陳列罪(※田舎の条例では都会と違って罪になります)にて
逮捕されそうでビクビクしているんですけども、
たまに身近な人と喋ってると「おや、もしかしてあなたもですか??」みたいな
意外な同志を見つける事が御座います。

通称「はぐれサブカル」です。俺みたいにオープンに臭さをまき散らしていないので
サブカル陳列罪にひっかかることもなく誰にもなかなか見つかられずにいます。
倒すと膨大な経験値が得られますが希少種なので俺はそんな事は致しません。


さて、俺は立場的に保育園のママ友さんたちと話す機会が結構多い方なんだけど
色んなママさんと喋っていると意外な発掘をしてしまう事が多くてですね、
特に音楽に関しては「あ、そのバンド私も好き!」みたいに盛り上がる事が結構あるの。

そういう共通項を見つけたときの互いのテンションの上がりっぷりは尋常じゃない。
悲しきオタクの性みたいなもんです。皆さんも思い当たる節が多々あるでしょう。
俺はこれまでも何回もそういう経験をしながらママ友さんたちと交流してきました。


ただつい先日羊文学を知っているママ友さんを発見したときは驚きました。

これまでも結構色んな人と好きな音楽が共通する事はあったんだけど、
超有名どころ~そこそこメジャーくらいのポジションのアーティストが多かった中、
まさか身近になかなかのはぐれサブカルが潜んでいたとは思いませんでした。

まぁおそらくあっちもそう思ったんでしょうけど。


というわけで遅れてしまったけど羊文学の話である。


羊文学は俺も最近イチオシのバンドである。
映画『岬のマヨイガ』の主題歌となった新曲も良かったし、
来年のアニメ『平家物語』の主題歌もいい感じだ。

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なにより昨年出たアルバム『POWERS』。


良く音楽ブロガーの方々がやっている年間ベストみたいな企画って
俺は今までやったことがないんですけど、まあ間違いなく俺の中の
2020年のベストアルバムはこの『POWERS』になると思いますよ。

それくらいに素晴らしいアルバムだったのだ。


まず一曲目の『mother』のイントロのギターを聴いた瞬間に
聖子ちゃんのようにビビビッときましたねコレ。
俺のサブカルアンテナが10本くらい立ちました。びんびんです。

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シューゲイザーと呼ばれるジャンルをご存じの方には分かって戴けるとは思うけど、
ノイジーなギターで一気にトリップさせ、どこか退廃的ででも温かみのあるサウンドに
柔らかくて儚いボーカルがまるで日記を読むかのように言葉を運んでくる。

これよこれ。これだったんだよ。俺が聴きたかったのは。
どんな音楽が聴きたいの?と言われて、んーなんだろうと困っているところに
向こう側から答えがやって来たみたいな感覚。分かりますか?


これが自分のサブカルアンテナがびんびんってヤツですよ。
この感覚って本当にいつぶりだっただろうか。
鮮明に覚えているのは水曜日のカンパネラを最初に聴いた時。あれ以来かも。

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全然ジャンル違うじゃんとか言うな。

理屈とかじゃねーんだよサブカルってのわ。
ソウルなのソウル。「こ、これは…!!」と感じること。

俺の中で確実にこの感覚を味わったのは水曜日のカンパネラ以来かもしれない。
もう少し薄いレベルで感じた事は何回もあっただろうけど、
ここまでしっかりと感じたのは本当に久しぶりだった。

natalie.mu

コムアイは脱退しちゃったけど。


冒頭のサブカル理論の話に戻るが、「サブカルとは何か」という定義は
数々の学者が挑んでは負けていった前例からも分かる通り
本当に難しいしある意味野暮な問いかけなんだとも思う。

人間の言葉なんてものは所詮人間が生み出したツールにしか過ぎないので
人類の今の言語野では言い表しきれない事象なんてごまんとあるわけよ。
それをなんとか言葉で定義しようという試みがそもそも無理筋なのである。


ただ長年サブカルクソ野郎として日々見えない敵に勝手に蹂躙されながら
被害者仕草に勤しんできた俺が今、敢えてこの問いに答えてみよう。


まずサブカルチャーというものは「メジャーと相対化されるもの」だと思っている。

メジャーと呼ばれるメインストリームがありそれとは明確に違うものがサブカル。
ただしそれがもしかしたら時を経てメインに取って代わるという可能性も否定しない。
長い期間サブカルかもしれないし割と早い段階でメジャーになるかもしれない。


またこのサブカルが相対化されるものという考えは
サブカル的なものとオタク的なものの違いについても適用される。

オタクと言うのは特に相対化されない。あるものをとことん愛していればオタクだ。
例えばジャニーズはメジャーな存在だがしっかりオタクは存在している。
しかしジャニーズが好きな人をサブカル好きと呼ぶ事はないだろう。

サブカルが常に自分以外の存在が外側に存在する事で成り立つのに対して、
オタクは外縁は気にしない。相対化された存在ではないからだ。
対象がメジャーだろうがマイナーだろうがその存在さえあればいいのだ。
まず文化の属性を指すサブカルと人の性質を指すオタクを比べるのも変な話だけど。


そして今の時代にサブカルが存在するのかという問いについては、
これは非常に希少な存在になったと言わざるを得ないと思っている。
前述の通り、サブカルとはメインストリームに相対化される存在なわけだが、
今の日本にメインストリームと言える程のぶっとい流れが存在しないからである。

例えば漫画に関しても市場規模は昔に比べてでかくなっているのだが、
昔に比べると一つ一つのパイが小さいものが増えたそうで、
つまりは消費される種類が多くなった事で横に広く売れているらしい。

勿論その中でも鬼滅の刃のようなメガヒットは生まれるが
全体的な傾向としてはヒットが分散している状況という事だ。
「こういうパターンこそがヒットする!」という法則が存在しない時代なのである。

つまり現代は、はっきりメジャーだと呼べる少数な存在がいるというよりも
いろんなジャンルが乱立している戦国時代と言えるわけで、
それがサブカルなのかどうかすら判断できないレベルで細分化された状況である。


さて、随分と生意気な講釈をだらだら垂れ流してきたんだけど、
「じゃあ結局のところ現代にサブカルって存在するんか?ああ?
 さっさと答えろよこの自称サブカルクソ体臭24h加湿器野郎が」
という俺にとってはご褒美みたいなご意見がきそうなので…


聴け。これが答えだ。

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羊文学こそが間違いなく現代に降り立った天使である。大天使サブカルである。

彼女たちの代表曲の一つ『1999』。このアルバムにも収録されているシングル曲だ。

かつてマイナーと呼ばれる音楽を懸命に聴いてきた俺たちが、
令和になって待ち望んでいた音楽とはまさにこんな曲だっただろう?
ずっと言葉に出来なかった音楽的欲求を見事に体現してくれた名曲ですよコレ。

本人たちはサブカルだとかマイナーだとか言われる事を嫌うかもしれない。
それでも俺はずっと羊文学のようなバンドを待っていたんだと分かった。
かなり身勝手な物言いだが、行き場をなくしていたサブカルの魂を救ってくれたのだ。


曲に出てくる「1999」というのは1999年。
今はもう遠い日になってしまった世紀末のあの頃の感覚。
オカルトだったり恐怖の大王だったりいろんなものが混じり合った90年代のカオス。

不安にもワクワクにも平等に降り注ぐクリスマスの光が
終わりゆく一つの時代を見送っていく90年代の鎮魂歌のような曲。
忘れられそうになっていた世紀末の香りを喚起させて後世に残す事に成功している。

俺もまるであの頃にタイムスリップしたかのような気分になったよ。
ああ、やはり平成も遠くなりにけり…。


世紀末で羊文学のような音楽と言えばやはり初期スーパーカー

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この時代の音楽が好きだった人には特にぶっ刺さる音楽である。


ちなみにギターボーカルの塩塚モエカさんは1996年生まれの25歳。

だから1999年当時の記憶なんてまず間違いなく無いはずだけど…
いや、分からない。女の子って結構昔の記憶覚えているもんだからね。
ましてや塩塚モエカなら当時の事を体全体で記憶していてもおかしくない。

しかし塩塚モエカのボーカルの存在感たるや。

洋楽のシューゲイザーってどうしてもサウンドメインになりがちで
ボーカルに注目がいく事はあまり無かったかなと思うけど、
羊文学は彼女のボーカルによってはっきりとした「歌」になっている。



そしてジャケットもまた良い。

一瞬「昭和の時代のレコード!?」と勘違いしてしまいそうなデザイン。
ひろゆきみたいに目をぱちぱちしてしまいそうなデザインをしがちな若手バンドの中で
ここまで研ぎ澄まされたジャケットをデビューアルバムに起用する豪胆さ。


勿論ボーカル以外のメンバーもそれぞれ際立っている。

なんだろう、元々邦楽ってバンド全体で音楽を鳴らしているという
イメージのあるバンドが少ないんですけど羊文学は音が耳に飛び込んでくるんよね。
それぞれの音が際立っている。ちゃんと「歌」でもあって「音楽」が鳴ってる。




ただドラムのフクダヒロア。
黒一点の男メンバーだけどなんかこう、もっとあるだろ!!

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公式サイトのアー写


ジャケットもそうだったけどさ、
いかにも学校の目立たないキャラポジションをキープしてるやん。
本人は好き好んでやってるのかもしれんけどなんか俺の古傷が痛むんだよ。

でもこのドラム、塩塚モエカが女の子に見えるからみたいなノリで勧誘したとか。
なるほど、確かに俺も初見は3人とも女性のガールズバンドに見えたしな。
そういう引け目もあってあえてドラムの彼はそういうポジションをとっているのか…


ちなみにボーカルの塩塚モエカ、ヤマダ電機の歌やってたりします。

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俺もたまーに店舗に行くけど、この歌は聴いたことないなぁ。
ヤマダ電機といえばやはりあの「やまーだ電気」の音楽の印象が強いんだが、
こういう曲もチョイスするとはなかなかナイスなセンスしてるなヤマダ電機。

これ、次のアルバムとかに羊文学として収録されないかな??


というわけで新曲も出たし改めて羊文学について語ってきたんだが、
今思い出したけどチャットモンチーの登場時に似てるなと思うのは俺だけかな。

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ガールズバンドの3人組という点でも同じだし(あれ?なんか…まいっか)。


「はあ?曲の感じ全然違うだろがこの逆噴射アロマミスト野郎」等と言われそうだが、
自分はそうは思いません。もっと根っこの部分で似ていると感じたんだ。

それはもしかしたらチャットモンチーが(済)になった今だからこそ
大好きだったチャットモンチーの幻影を俺が無意識的に追い求めていて
それを羊文学に垣間見たから勝手に重ねてしまっているのかもしれん。



でもそうだとしても俺は嬉しいんだ。
気づけばなかなかの年齢になってきた俺にとっては
若いバンドから昔好きだったものの匂いがするだけで嬉しいんだよ。

ラブリーサマーちゃんを聴いた時も「わあああブリグリだああああ」って
嬉しかったもん。いやごめん、ブリグリは解散はしてないんだけどね。
でもそうやって色んなバンドの魂が後世に形を変えながらも受け継がれつつ、
そして若い世代には新鮮な音楽として聴かれていく事ってステキやん?




というわけで、
今回は俺が勝手に「サブカルの復活!」みたいな感じでまくたてたがために
ノスタルジックに浸るような内容になってしまったんだけど、
でも羊文学が単なる過去の焼き直しバンドではない事は分かってもらいたい。

それにもしかたら彼女たち自身がメインストリームとなって
次世代を代表するアーティストの一角となる可能性だってあるのだ。


こういう出会いがあるから新しい音楽を聴くのって止められないんです。
俺がいつまでこんな気持ちでいられるかは分からないけど、
少なくともビビビッときた時の事は忘れずに記憶していきたいなと思います。

そして羊文学のさらなる活躍を期待して、
保育園の他のママ友さんを起点にもっと広げていこうかな。


そういや「塩塚モエカ」という表記もサブカル臭くてまたいいよね。
大槻ケンヂ。安野モヨコ。ああごめんなさい。なんでもサブカルに結び付けて。


【採点】
・2020年ベストアルバム 50点
・サブカルアンテナ着信 30点
・ヤマダ電機のCM    5点
・ガールズ3人組     3点
88点