脱R論

一般人の一般人による一般人のためのゆるくテキトーな音楽ブログ。ロックから脱却出来るその日まで音楽ネタを中心に書き綴ります。

【Album】緑黄色社会 / Actor [2022]


ニュー・ジェネレーション・ポップス。

 

※独断と偏見によるコラ画像



おっと、気付けば今年もあっという間に半年が過ぎようとしているではないですか。
年を重ねる毎に時間の流れが早くなると言うのは実感としても間違いないな。


先日我が一家は4人全員コロナに罹ったわけですが、回復後は「暫くは抗体を持った無敵状態だ!」とスターを得たマリオばりに活発になってめちゃくちゃ外出を楽しむようになりました。すんません、最近はもう楽しくってしょうがないんです。

予定を詰め込みまくりで金も時間も浪費しまくり、正直こんなんでいいんかと不安になる事もあるけど、スターの無敵時間の間にやりたい放題やるのが大事だとマリオに教わっているからな。特に小さい子供はワクチンも打てないし、今この時こそがチャンスなんですわ。


さてそんな個人的事情はさておいて、最近は感じている事の一つに世間的な「流行り」みたいものが今年は本当に無くなってきているなという事がある。

こんな事をいうとすぐ反例をシュバババっと持ち出して「はい論破ー!」とか言ってくるイキリ野郎もいらっしゃるだろう。はいはい、論破されましたー僕の負けー君の勝ちー良かったねーだからこっから先はもう読む価値が無いよねはよブラウザバックしろや!


勿論シン・ウルトラマンだのSPY×FAMILYだのが流行ってるのは分かるが、なんかこう局所的な感じがするんだよ。多くの人を巻き込んだブームって感覚がないんだ。トップガンとかストレンジャー・シングスとかも海外に比べて日本では今のとこそこまでじゃないし。年取って俺の感覚が鈍ったのか??いやそんなはずはない!俺はいつもアンテナびんびんなハズだ。ハズなんだ。


特に音楽についても去年は『うっせぇわ』が大流行して面白かったが、今年は世間に響くような話題作があったか?というと正直生まれていないと言える。『おとわっか』??あーあれはいいね。昔のニコニコみたいで好きよ。でもあれは流行っちゃまずいだろ。流行るな。


海外で今圧倒的人気のハリー・スタイルズも日本ではまだまだ全然知られていない状況だ。

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音楽を意識して追っている人からすれば結構色々あったのかもしれないが、一般人の代弁者たる俺からしてみれば、最近は音楽というカルチャー自体の存在感がもうすっかり薄くなっている。これは最近はいい音楽が少ないとかいうわけではなく、時代的なものや人々の音楽の聴き方の変化だったりといった要因があるんだろうと思う。


さて、そこに触れ始めるとまた長ったらしくなるので、俺としてはいつも通り音楽を紹介していくしかないわけだが、こんな2022年の上半期の状況の中でこれは書いておきたいなと思ったアルバムがある。それが今回のこの緑黄色社会の『Actor』だ。




冒頭でも紹介した2022年邦バンド三銃士が一角、緑黄色社会。
バンド名後悔してないのかなと心配になる、通称リョクシャカの最新アルバムである。
ちなみに現時点でのYoutube登録者数ではSaucyDogを少し上回りリョクシャカが三銃士の中でもトップである。


…正直、俺から言わせれば「やっと人気になったか!」というバンドだ。

ああ自称音楽通のイキリさ。イキらせてくれ。緑黄色社会はな、こちとら3年以上前から聴いてたんだよ。ああそうだ、自称音楽通が繰り出す得意技「このバンド前から知ってたし」ってヤツだ。でもホントだもん!前から聴いてたんだもん!

ごめんなさいね、聴いてたという割にはまともに今まで紹介した事なくて。ちょうど3年くらい前から色々あったんだ俺は。すまん、リョクシャカ。俺はステキなバンド名だと思うぞ。健康にも良さそうだし。


色んな音楽聴いていると「俺は好きだけどコレはメジャーにはならなそうだよねー」的なアーティストってかなりいるんですよ。それはもう音楽性的に。カルト的人気にはなっても日本で一般的に売れる事はない、そんなアーティストいるでしょ??

でも緑黄色社会ってそういう”臭み”が無かったの。純粋無垢で毒っ気が無い。だけどエンタメ寄りでもなくてスマートなイメージ。すっごい「真面目」な印象が強いバンドだった。

かといって意識高い系ってわけでもなくとっつきやすい。だから売れたところで何ら不思議ではなく、むしろもっと早くに人気になっても良かったとすら個人的には思っているバンドなのだ。


前作のアルバム『SINGALONG』も良かったんだが、今作『Actor』は着実にパワーアップしている。何よりバンドの勢いの良さがそのままアルバムになったような一枚だ。

あまりの勢いの良さのせいでジャケットの人物たちが動物になってしまったまである。




ちなみにこれらの動物は、それぞれが収録曲14曲いづれかのイメージになっているそうだ。誰がどの曲かまでは、すまんがそこまで照らし合わせていない。


アルバム1曲目は、冒頭一曲目によくあるインスト的扱いの導入曲『Actor』の壮大で(ちょっと大げさな感じで)幕を開け、今作のリードトラックであり恐らくアルバムの軸と言える曲『キャラクター』がスタートする。

そしてこの『キャラクター』という曲こそが圧倒的に素晴らしいのであり、個人的にも年間トップクラスに入るであろう楽曲なので是非聴いて欲しい。

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サブスク時代の重要要素『サビから入る』のプレッシャーを真正面から受けて、堂々と自信満々のイントロとサビから入るすっごい前のめりの曲。

何といってもその繰り替えされるリフレインに度肝を抜かれる。

誰だってニジューだってニジューだってニジューだ

 


…え…??

俺もNiziU…??


かつてなわとびダンスを真似しようとして足が絡まって転んだ俺が…NiziUでいいのか!!??

誰だってNiziUだと言い続けるこの曲はあの「HUGっと!プリキュア」48話「みんながプリキュア」以来の衝撃だ。あの日みんながプリキュア化していったように、この曲を聴いた人類はNiziU化していく。これはそんな恐るべきNiziUコラボ楽曲なのである。


…という側面もありつつ、
やっぱりこの曲の凄いところは「ポップソングの底力」を見せつけてくれた点だ。
凄まじいパワーを帯びた彼女たちのポップネスが、これでもかと俺を殴ってくる。ぐへぇ。


ちょっとネタっぽくなってしまったが、この曲のテーマは言ってしまえば良くある「誰だってみんな大切な人なんだよ」という内容だ。
だが俺がとても気に入っているのは冒頭一発目のサビで投げかけられた下記の部分である。

そこら中にありふれたキャラクターが魅せる
奇跡の日々だ


そう、人間ってみんな大体ぶっちゃけ「そこら中にありふれたキャラクター」なんだ。でもその上で、その事実を受け止めた上で彼らが織りなす”奇跡”を肯定している。
ここに俺はとても現代的な感覚を覚えたのである。


思い出して欲しい。数年前までは「みんな何かのスターになれる」的な、”誰もが何かの原石”といった自己啓発が流行っていたでしょ?自分はきっと輝かしい人生を送るんだという希望。勿論そんな希望を持って頑張る事は悪くはないんだけど。

しかし頑張っても結局「何者」にもなれない人々が大勢いるし、苦悩している人もいるだろう。そんな中、星野源が『ドラえもん』の中で「何者でも無くても世界を救おう」と歌い、ポスト”何者”とも言える新しい価値観を紡ぎ出し話題となった事を思い出した。


そうか。俺らは今、ポスト”何者”の時代を生きているのだ。ダイヤモンドの原石だろうが、定期的に除去した方が良い歯石だろうが別に関係ない。例えありふれた人間だとしても彼らが営んでいる日々の素晴らしさを肯定したい、そういうポジティブさがより多くの人を結果的に救うのではないだろうか。

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元々リョクシャカって若者の葛藤が歌のテーマになることが多かったんだが、実はこの『キャラクター』のような全面的に底抜けなポジティブソングというのは結構珍しい。というか初めてなのではないだろうか。これまではやはりどこか気恥ずかしさもあってエモさを残していたのかもしれない。

つまり『キャラクター』はリョクシャカがネクストステージに立ったとも言える曲でもあり、このアルバムがバンドのキャリアにとっても重要だという事を自ら宣言する曲でもある。


確かに曲の根底にあるのは「他の人と比べなくても君自身のままでいい」というめちゃくちゃありふれたメッセージかもしれない。しかしそのありふれたメッセージを驚異的なポップネスでパッケージしている点がまた秀逸なのである。

ポップソングに留まらず、音楽には単なる言葉だけでは伝えられない感情を乗せる効果が存在する。歌詞だけを読めばいいってもんじゃない。音楽として聴く事でしか得られないニュアンスが確かにあるのだ。

この『キャラクター』は良く聴けばアレンジも格段に凝っているのが分かる。凝っているしそれが滅茶苦茶質の良いJ-POPになっている。ひたむきにポップスと向き合ってきた結果生み出された珠玉の一曲だ。

インタビューでバンド自身が難産だった曲と語っていたし、メンバー4人全員による共作という点も重要だ。ありふれたテーマから生み出された奇跡のようなポップソングだと思っている。


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と『キャラクター』だけで大分語ってしまったが、勿論他の曲も良い曲が多い。
クオリティの高いポップソングが目白押しである。

むしろ『キャラクター』だけのアルバムなら俺はアルバムとしての評価はむしろ低くなる。
俺は前から言っているんだが、1曲だけが目立つアルバムってのは正直大した事ないんだよ。ゲームやラノベならステータスを極振りしたキャラクターは確かに面白いが、アルバムという単位で話をする場合はやっぱり悪目立ちは良くない。


上記のドラマの主題歌にもなった『LITMUS』も、今やリョクシャカの代表曲の一つに(俺感覚)。アルバムは序盤にカラフルでテンポも早めな曲が多めな構成だったが、ここで比較的シンプルな音をバックに長屋晴子のボーカルをじっくりと味わう事が出来るバラードナンバー。

伸びやかに歌いながら裏声と地声を自由に行き来する長屋晴子のボーカルはやはり特徴的。聴けばすぐその人とわかるボーカルは強いね。か細い声のようで、でも実は力強い声。おかげでどんな曲を歌ってもいい感じのポップ感がある。

ちなみにリョクシャカは高校の同級生バンドが始まりなのだが、現在のギター小林も当初ボーカル志望だったそうだが、長屋の歌を聴いてボーカルを諦めたというエピソードがあるほどだ。小林はもう別バンドも組んでそこでボーカルを狙うしかない。


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こちらはCMタイアップ曲『ずっとずっとずっと』。「ずっとずっと」ではなく「ずっとずっとずっと」と3回も念を押してくるのがポイント。雰囲気的には俺が青春時代だった2000年代のような曲調で個人的にはどこか懐かしいテイストを感じる曲である。
バンドアンサンブルがカッコよくて、ボーカルのノリもめっちゃクールでスタイリッシュな一曲。


ちなみにこの曲がタイアップしたビールCMにはボーカルの長屋が弾き語りで出ていた。長屋晴子はピンでもモデルや女優としてメディアに出る事もあって、正直バンドメンバーの中でも長屋ばかりフィーチュアされてる感はあるのはすこーし気になるところなんだけど。でもまぁ美人さんだしそりゃあBIGMAMAのイケメンとも


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これは毎日テレビのセンバツ野球のテーマになった曲で、後にCMソングにもなるタイアップもりもりソング。というか近頃のリョクシャカはタイアップ曲がもりもりなので、よっぽどオファーがもりもり来てるんだろうなと予想。

あとこちらは『ずっとずっとずっと』とは違って『たとえたとえ』と2回で念押しが終わっている。発売日的には『ずっとずっとずっと』が後なので、この曲で「もっと念押ししときゃ良かった」という反省が活かされているのかもしれない。

跳ねるようなポップさと爽やかさとドラマティックさが見事に融合した、いかにもリョクシャカ!みたいなナンバー。個人的にはこういう路線がやっぱりリョクシャカっぽくて好きだなぁ。野球の応援を意識した高らかなホーンの音も、うーんポップネス!


そしてがっつりバラードな『結証』。

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アニメのEDとしても人気になった曲で、しっとりした導入部から感動的なサビへと繋がる構成がガチで泣かせにくる。いとしくて切なくて心強い。あとMVもガチで泣かせに来てるのでずるい。読んでないけど多分Youtubeのコメ欄で「これ観て泣いた」的コメントにいいねつけあっているに違いない。


あとMVは無いけど『S.T.U.D』もリョクシャカの新たなアプローチが聴けるカッコイイ曲なんでおススメ。ライブで盛り上がりそう。『Landscape』も突き抜けるようなバンドサウンドが気持ちよく、この辺りの曲は作曲したベースの穴見真吾の手腕なんだろう。ちなみにリョクシャカは全員が作詞作曲できるらしいのでそれもまた強みだ。


あと去年発表された『アーユーレディー』もいい曲なんだけど今回のアルバムには収録されておらず。これはなんでだ…?

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あと4月の新曲はクレしんの主題歌になったりと、次々と色んな仕事をこなしていく真面目なリョクシャカ。とにかくタイアップ受けが良いバンドなんだろうなというのは彼らの手掛けたタイアップ曲の多さを眺めてみれば分かる。

というわけで確かにタイアップ曲だらけのアルバムだという見方も出来るが、内容もしっかり充実しており『Actor』というワードが(メタ的な意味でも)ばっちりハマったアルバムだと思います。

何というかポップバンドとしての自覚に目覚めたようなそんな覚悟すら感じるアルバムだった。
「ポップ」と言うと一昔前はロック勢からすればちょっと子どもじみた音楽のような使われ方をしていたし今でも多少はそういった含みもあるんだろうけど、最近はすっかり純粋な「ポップ」としての価値を多くの人が認めるようになったと思う。

故にちゃんと”ポップをやる”というのもまた難しい時代だなと感じる。

音楽の楽しさと音楽が持つ可能性と、そして普遍性・大衆性。ポップスには様々な条件があるがそれらを満たす事は容易い事ではない。

冒頭でも話したように、大衆みんなに届くような「流行」が見えなくなった時代だ。かつての流行歌のようなポップソングが今後も次々生まれてくるのかというと、正直難しいだろう。

だからしっかりと芯を捉えたポップをやるというのは、ロックをやるよりある意味険しい道なのである。
そして緑黄色社会はその事を分かった上でその道を進んでいくんだと思う。そういう決意を俺はこのアルバムから感じた。本人達にはそんなつもりはないのかもしれないが俺は感じたんだ。だから俺のこの感想を無駄にしないためにも緑黄色社会には頑張って欲しい。


本人達としてもきっと飛躍の年になるであろう2022年。
これからも真摯で真面目なポップバンドという肩書で頑張って欲しいです。

そういや先日娘の小学校の運動会があったんだが、競技中に緑黄色社会の『Mela!』が流れていた。

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どうやら曲自体がその競技のテーマ曲になっていたみたいだ。
やはり人気なんだなーと思っていたが、運動会の冊子の競技紹介文の中には『Mala!』と記載してあって、いや待てその誤植はさすがに冊子回収しろよと本部テントに殴り込みに行こうかと思ったんだがあまりに暑くて止めた。


そんな俺のご近所ですが、どうか来年の運動会でも盛り上がるような曲をまたお願いします。


【採点】
・やっと書けたリョクシャカ 30点
・圧倒的なポップスの深み  30点
・バンドが到達した高み   20点
・俺昔から知ってたし    -2点
78点

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